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「そういえば、もうすぐ夏休みね」
桜はあっという間に散って、季節はとっくに変わり、長袖のブラウスですらうっすらと汗ばむような時期にさしかかってきた。
いつものように仕事をして、お昼休憩を明日香さんと由季さんと過ごしていた時、冒頭の言葉を明日香さんが何気ない口調で言ったのだ。
「…なつ…やす…み…?」
「そうよ。9日間だけど、会社から休みがもらえるわ」
「夏休み、嬉しいなぁー。ねぇ、明日香もユリちゃんも、どこかに行く予定があるの?」
由季さんはのほほんと日本茶を啜りながらそう尋ねた。私は今しがた話題となっている「なつやすみ」を頭の中でもう一度繰り返した。
「…なつ、やす…み?」
「ちょ、ちょっとユリ、なんでそんな信じられないっていうような顔をしてるの?」
「え?だってなつやすみって、都市伝説じゃないんですか…?噂には聞いていましたがほんとに存在してたんですか…?」
「ユリちゃん、目がマジだね…」
「…今までいた環境がいかにブラックだったかを物語ってるわよね…」
ため息まじりに、明日香さんはよしよしと私の頭を撫でてくれた。なんだかよく分からないけど、なつやすみとかいう奴のお陰でこんな美人な人に頭を撫でてもらえるんだから、なつやすみ様々だな、と思った。
「そうだ、今年も行きましょうよ。夏祭り」
「ああ、いいねぇ。去年も楽しかったもんね。今年はユリちゃんも一緒に」
「へ…?」
聞くところによると、神社で毎年行われる夏祭りがあるらしい。境内は広く、たくさんの出店が出て人もたくさん集まるそうだ。
「じゃあ今年も十代とヨハンを誘ってみましょうよ。…あ、いいところにいたわ。十代!ヨハン!」
「おー、明日香。どうした?」
たくさん食べる人なのか、十代さんの腕には菓子パンやら惣菜パンやらサンドイッチやら、これでもかというくらい抱えられている。
焼きそばパンをもぐもぐと頬張る十代さんと、ヨハンさんは私たちが座っているテーブルの近くで立ち止まった。
「今夏休みの話をしてたんだけど、今年も一緒にお祭りに行かない?」
「あぁ、いいぜ!オレはその日特に予定ないしな。ヨハンは?」
「オレもないよ。去年みたいに浴衣着ていこうかな」
ヨハンさんの浴衣…!
絶対似合う。絶対に格好いい。
目をキラキラさせながら想像に耽っていると、十代さんに「どした?ユリ」と声をかけられた。
「はっ!いいえ、なんでもありません!」
「私と明日香も去年浴衣で行ったんだぁ。ユリちゃんは浴衣持ってる?」
「あ…そういえば持ってないです」
何年も彼氏がおらず、仕事仕事に明け暮れた日々を送っていた私が浴衣なんて持っているはずもなかった。
まぁ私服で行ってもいいかな、なんて思っていたら、ヨハンさんが残念そうに眉根を下げた。
「そっか。持ってないなら仕方ないけど、ユリの浴衣姿、見てみたかったな」
「そんな…大層なものじゃないですよ」
「そんな事ないさ。きっと可愛いよ」
「(ひゃーーー!!!)」
優しげに微笑みながらそんな事を言われて、顔が赤くなってしまいそうだ。
「じゃあさ、今日の帰り、明日香と三人で浴衣探しに行ってみない?」
「ええっ?!そんなご迷惑をかけるわけには…」
「迷惑じゃないよ。私もユリちゃんの浴衣姿、見てみたいもん」
「そうね。私も見てみたいわ。ユリ、どうかしら?」
「………じゃ、じゃあ、よろしくお願いします…」
キラキラと目を輝かせた美女2人に挟まれて断れるわけがなく、私はぺこりと頭を下げた。
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