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明日香さんと十代さんの会話を聞いて、私は確信した。由季さんがヨハンさんの事を好きだということ。
けれど思い返してみても、由季さんがヨハンさんの事を想っていると気づくに至る点はなかった。
それはただ単純に私が鈍いだけなのか、それとも由季さんが表立って気持ちをアピールしようとしていないだけなのか、どちらなのかは分からなかった。
「ユリ?どうかした?」
「あっ…いいえ。なんでも」
思わず動きを止めて思考していた私の顔を明日香さんが覗き込む。
明日香さんは由季さんの気持ちを知っている。そして私はヨハンさんの気持ちを知っていて、私は私の気持ちをちゃんと知っている。
ーこんな時私は一体、どう立ち振る舞えばいいんだろう。
「あの、私ちょっと喉乾いちゃったんで、飲み物買ってきます」
「わかったわ。私は十代とここで待ってるわね」
「お、人多いから気をつけて行ってこいよ〜」
その場に大人しく座っていることができなくなって立ち上がった私に向かって、十代さんはフランクフルトを振って見せた。
別に喉が渇いただなんてただの口実で、私はただその場から離れる理由が欲しかっただけだ。一人で落ち着いて気持ちを整理することが必要だと思ったから。
「…あ、ごめんなさい」
どこか人気のないところに行きたくて、私は境内の端を目指して歩いた。けれど人が多くて、掻き分けてやっと進める状態。すれ違う人たちと時折ぶつかりながらも歩いていると、ふと視界に入った後ろ姿があった。
それは由季さんとヨハンさんで、2人は並んでヨーヨー釣りをしている。二人は微笑みあっていて、由季さんは私が今まで見たことのない、幸せそうな笑顔を浮かべていた。恋をしている女性の表情だ、と思った。
途端に胸が苦しくなって、歩みを早める。
ようやく人混みの先に神社の本堂があるのを見つけて、人気が少ないのをいいことに私は石段にそっと腰掛けた。
由季さんの気持ちを知らなかったとはいえ、私がヨハンさんと一緒に帰っている姿や、宝玉獣の話で盛り上がっている姿を見て、一体どう思っていたのだろう。少なくともいい気持ちはしなかったに違いない。それでも由季さんはいつだって私に優しく接してくれた。
カゴ巾着をぎゅっと握りしめると、自然と目頭が熱くなってきた。でも今は泣いたらダメだ。十代さんたちのところに戻れなくなってしまう。
「ねえお姉さん、一人で来てるの?」
「…え…」
「良かったらオレたちと遊ぼうよ。男2人で来てみたけど味気なくてさぁ」
顔を上げると、そこには2人の男性がいた。
いかにも、と言った外見をしていて、正直私の苦手なタイプだ。こんな漫画みたいなこと本当にあるんだな、と思いながらも、私は「ごめんなさい、人と来てるので」と口にした。
「ホントに〜?さっきから一人でいるじゃん。嘘なんじゃないの?」
「嘘じゃないです」
「じゃあその人と合流するまででいいからさ、ね!」
「ちょ、ちょっと…」
ぐい、と手首を引かれる。なんて強引なんだろう。すかさず抵抗したけれど、やはり男女の力の差には限界があった。
「やめてください…っ」
「いーじゃんいーじゃん、ちょっとだけ!」
「…っ、いい加減に」
「ユリ!」
離してください、と強く言おうとした時、声がした。そちらを見ると、軽く息を切らせたヨハンさんがそこに立っていた。
「…ヨハンさん…」
「その手を離してくれないか。彼女はオレの大切な人なんだ」
どき、と心臓が音を立てる。
真剣な表情で好きな人にそんなことを言われて、ときめかない人間がいるだろうか。
「なんだよ、ホントに連れいたのかよ。しかも男」
「つまんねー。行こうぜ」
事を荒立てる気はないらしく、彼らは大人しく去っていった。それを横目で見送ってから、ヨハンさんは私に一歩、歩みを寄せた。
「ここにいたんだな。十代たちのとこに戻ってもいなかったから、心配で」
「…探してくれたんですか」
「ああ。この人混みだし、迷子になってたらどうしようって思ってさ。…見つかって、良かった」
私の頬にヨハンさんの手がそっと添えられる。真っ直ぐな瞳に見下ろされて、近づいてきた顔に私はそっと目を閉じた。
何秒か唇を軽く重ねただけだけれど、まるで慈しむようなキスだった。そのまま軽く抱きすくめられて、私は息が止まりそうになる。
「ちゃんと言おうと思ってたんだけど…ホントに可愛いぜ、浴衣姿。独り占めできないのが残念だ」
「そんなこと言うの…反則です…」
「だって本当だから、仕方ないだろ?」
そう言っていたずらっぽく笑う。
ああ、どうしよう。私はヨハンさんの事が好きで仕方がない。
そう思ったと同時に、さっき見た由季さんの幸せそうな笑顔がふっと浮かんで、また胸が少し苦しくなるのを感じた。
「…戻ろう。みんなきっと心配してる」
「はい…」
優しく差し出されたヨハンさんの手。
一瞬、その手に自分の手を重ねるのをためらってしまったことに、彼が気付いていないといいと思った。
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