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朝の光に誘われるように目が覚める。
天井が目に入って、私はまたずしりと気持ちが重くなったのを感じた。

隣を見ると、眠る亮の姿があった。
その引き締まった身体を見て、昨日も抱かれたことを思い出す。


会社を休んで今日でもう5日目。
体調不良という理由が通るにはそろそろ無理があるだろうと思うけれど、どうしても出社できずにいた。


亮に連れて来られたあの日、家に帰ろうとした私を彼は引き止めた。気持ちが落ち着くまでここにいていいと言ってくれた。

その申し出に救われた気になったのはその一瞬だけで、あとはこの亮の家で時間を重ねるごとに私はどんどん耐えがたい気持ちに押しつぶされそうになっていった。


「…ユリ」
「亮…。おはよう」


上半身を起こしてシーツを握りしめたまま思案にふけっていると、隣から亮の声がした。彼も同じように身体を起こすと、深い息をひとつついた。


「今日も休むのか?」
「…悩んでるところ」
「そうか…」


後ろから腕が伸びてきて、私の身体がゆるく包まれた。


「ユリ。お前はオレと一緒にいても、違う奴のことばかり考えている」
「…え…」
「キスをしていても、お前を抱いている時も、今こうしている時も。電話の相手の…ヨハン、だったか」
「!なんで、名前…」
「眠っている最中に泣きながら名前を呼んでいたからな」
「…」


亮の腕に力が込められて、身体が密着する。
背中に彼の体温と心音を感じながら、私は動けずにいた。


「この数日で、ユリの気持ちが動くことがないという事をハッキリ突き付けられた」
「亮…?」
「…オレはユリが好きだ。だが、お前の気持ちの中には、そいつ以外入る余地はないんだな」


亮の長い指先が私の頬をつぅっと撫でて、私はようやく泣いていることに気がついた。


「…このまま壊れていくお前を見たくない。ここに連れて来たのはオレだが…やはりそいつに会いに行くべきだ。悔しいが、そう思う」
「…っ」
「ユリ、お前の気持ちを無視した行動を取って悪かった。ただ…ひとつだけ頼みがあるんだ」
「…うん」


私の身体を包む腕に微かに力が込められて、亮の低い声が鼓膜を震わせた。


「最後にもう一度だけ…キスさせてくれ」


切なく、絞り出したような声。
今にも泣き出しそうな。

亮は一体どんな気持ちで私に触れていたのだろう。どんな気持ちで私を抱いていたのだろう。

想像しただけで、刺されるように胸が痛んだ。


私は返事の代わりに小さく頷いて、亮と向かい合った。亮は「ありがとう」と小さく呟くと、私の両頬に手を添えて、軽く触れる程度の、けれど少し長い口づけを落とした。


「私も…ありがとう。亮」
「ああ。元気で」


最後に私から、亮の身体に腕を回してぎゅっと抱きしめた。亮は微かに微笑むと、私の頭を優しく撫でてくれた。

ベッドから降りて、ブラウスとタイトスカートを履き、ジャケットを片手に下げてカバンを肩にかけた。



玄関まで見送りに来てくれた亮を一度振り返り、口元に微笑みを浮かべる。それに応えるように頷いてくれた彼を後に、私は勢いよく走り出した。


ーごめんなさい、そして、ありがとう。


人目なんて気にしている余裕はない。
走り出した瞬間からもう、溢れる涙を止めることはできなかった。


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