05
夕方になると、外回りに行っていた営業課の人たちが戻ってきて報告書類をまとめていた。
私はやっと一通りの業務を簡単に教えてもらい、まずは出来ることから任せてもらう形になった。
「明日香さんは教えるのが上手ですね。とても分かりやすいです」
「そう?それならよかったわ」
「学校の先生とかでも向いてそうですよね。私、明日香さんが先生ならきっと喜んで学校に通うだろうな」
「まあ、ほんとに?」
頬を少し染めて、明日香さんは「ありがとう」と言った。
「実は一度、教師の道も考えたことがあって。もし転職をすることになったら、それも視野に入れてみようかしら」
そんな話をしていると、終業時間を告げるベルが鳴った。時計を見ると午後17時。
途端に周りの人たちはパソコンをシャットアウトし始め、荷物をまとめ始める。
「えっ…えっ?!皆さん、もう帰られるんですか?」
「当たり前でしょう。もう定時なんだもの」
「定時なんてものがこの世に存在したんですか…」
もはや私の中では信じられない事実である。
少し前までは定時を過ぎようが夜中の24時を過ぎようが私はパソコンの前に座っていて、終電で帰れた時は「電車で帰れる!」とむせび泣くほどに歓喜していたというのに。
「おーいユリ!」
「あ、ヨハンさん」
「なぁ、良かったら駅まで一緒に帰らないか?まだ話足りなくてさ」
「もちろんです。私もまだまだ話足りません!…でも…」
「ん?どした?」
「ほ、本当に帰っていいんでしょうか…残業は?まだ外明るいし、定時で帰るなんて私、ほぼ初めてで…」
とてもじゃないけどまだパソコンの電源を落とすことができず、その上まさか荷物をまとめるなんてことも出来ていない。私の社畜耐性は中々であると自負している。
ヨハンさんはしばらくぽかんと口を開けていたけれど、「あっ」という私の声をよそに、すっと手を伸ばしてパソコンの電源を落とした。
「いいんだよ。今日はもう終わりなんだから。な?」
「は、はい…」
「荷物まとめてすぐ来いよ。下で待ってるからさ!」
そう言い残すとヨハンさんは「じゃ、みんなお疲れ!」と軽い挨拶をして部屋を出ていった。
本当に帰っても大丈夫そうだ、とようやく思い始めた私はもたもたと荷物をまとめ始めた。
「お疲れ様、ユリ」
「!エドさん」
「この後時間はあるかい?良かったらどこかで話でも、と思ってたんだけど」
「えっ?!私とですか?」
「ああ。迷惑だったかな?」
「迷惑だなんてそんな!…ただ、今日はヨハンさんが一緒に帰ろうって誘ってくれたので」
「…なるほどね。先手を打たれてしまったか」
うーん、とエドさんは顎に手を当てて少し思案する様子を見せる。そしてすぐに私の肩に手を置くと、ぐっと顔を近づけて耳元で小さく言った。待ってほしい。近い。
「それなら明日はどう?良ければ君を予約したいんだけど」
「はっ…ははははい!!私でよろしければ空いておりますっ!」
「そう。良かった」
エドさんはそう言ってにっこり笑うと、ぽん、と私の肩を軽く叩いた。去り際に明日が楽しみだ、と言い残し、部屋を出ていった。
1/48
prev next△