恋敵出現?


「モブ君!」
「あ、ユリさん」


部活の帰り道、すっかり暗くなった空の下。
後ろから聞き慣れた声がした。

振り返るとやっぱりユリさんの姿。
彼女は僕の家の隣人で、歳はみっつ上だ。


家が隣同士で、昔は律と一緒にたまに遊んでもらっていた。今となっては向こうは高校生で、僕も中学生男子だから遊ぶことはなくなってしまったけど、僕はユリさんがとても好きだった。



「肉体改造部の帰り?」
「はい。ユリさんは?部活入ってないのに今日は遅いんですね」
「それがねー、実は友達に紹介された人と会ってきたんだ」
「え?」
「ホラ、私って彼氏いたことないでしょ?心配してくれた友達が、ユリと絶対相性いいと思うから会うだけ会ってみなよ≠チて言って紹介してくれてね」
「はぁ…」


なんだろう。胸がざわつく。
ユリさんが僕や律とは違う男性と会って話していたところを想像するだけで、なんともいえない感情に襲われた。


「それで…どうなったんですか?」
「モブドナルド行って少し話してきたよ。まあ、たしかにいい人だったかな」
「いい人…。そ、その、付き合うんですか?」
「え?それはまだ分かんないよー。今日初めて会ったばっかりだしね」


「まだ」分からない。
それはつまり、これからそうなる可能性もあるってことだ。

ユリさんが他の男の人と並んで歩いているところを想像してみる。なんだろう、この上なくおもしろくない。

もしこのまま関係が進んでいったら、ユリさんとその人は付き合う事になるだろう。それはつまりユリさんに彼氏ができるってことで。


「それは嫌だな…」
「え?」
「あ、いえ、なんでもないです」


思わず飛び出した言葉に僕自身がびっくりした。
そうか。僕はユリさんに彼氏ができるのが嫌なのか。ユリさんが誰かにとられるのが嫌ってことなのか?あれ?でもそれって…。


「…ユリさん」
「うん?」
「今週の土曜、空いてますか」
「特に予定はないけど…」
「僕と会ってください」
「え?いいけど…急にどうしたの?」
「いえ。ユリさんと過ごしたいなと思って」


僕だってユリさんの隣にいたいと思う一人なんだ。負けていられない。僕はカバンの柄をぐっと握りしめてそう思った。

悪いけど、今週の土曜は師匠の呼び出しにも応じられなさそうだ。



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