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槙島さんが去った後、私はベッドに倒れ込んでぼうっとしていた。涙は少しずつひいてきたけど、鏡を見なくてもわかるくらいに目の周りが赤く腫れていることが分かる。



なぜこんなにも次から次へと涙が溢れてくるんだろう。自分でも理解できなかったけれど、まるで水面に映った幻のように、慎也君と槙島さんの顔が心の中に浮かんで揺らめいている。


今日はゆっくり休もうと思った矢先、カバンの中の携帯が音を立てた。


「ーもしもし?」
「あ、よかったやっと繋がった。心配したんだよ、もう」


数日前に一緒に飲みに行った友人からだった。


「大学探してもいないからさ。…風邪?」
「まあ、そんなとこ。少し体調悪くて」


嘘ではない。
槙島さんとの行為のあとで、下腹部が痛いのは事実だったし。

つい二時間ほど前まで私はあの人に抱かれていたんだと思うと、胸がちくりと痛む。


『そっか。一人暮らしだから心配だよ。今日何か買って行こうか?』
「ううん、大丈夫!そんなにひどいわけじゃないから」
『そう?…分かった。じゃあまた大学でね。お大事に』
「うん、ありがとう。またね」


そう言って通話を切る。
友達に迷惑をかけている場合じゃない。せっかく定期入れを取り戻すことができたんだから、明日からは元気に通学しなくちゃ。


今は少し休もう、と思い目を閉じる。
浅い睡眠に入りかけた時、インターフォンが鳴り響いた。今度は誰だろう。

下腹部にあまり刺激を与えないよう、ゆっくりとベッドから這い上がる。セールスだったらその場で追い返そう、そう思ってドアを開けた。


「はーい」
「よう。久しぶりだな」
「………………………え?慎也君?」


理解するのに数秒を要した。
だってそこには、慎也君が立っていたから。


「んな化け物見るような顔するな」
「え?だって…………。ど、どうして?」
「今日は非番でな。車でドライブがてら、お前の顔でも見てこうと思ったんだ」
「そうだったんだ。………と、とりあえずどうぞ!」
「いいのか?」


勢いよくこくこくと頷く。
せっかく慎也君に会えたんだ。こんな立ち話だけで終わらせるわけにはいかない。


慎也君を部屋に招き入れる。
大学生の一人暮らし故に広い家ではないのが申し訳ないが、慎也君はまるで気にしていないようだった。


「これ。土産」
「え?あ、ありがとう…!」


手渡された紙袋の中身を見ると、プリンとケーキが入っていた。わざわざ買ってきてくれたのかと思うと嬉しさがこみ上げる。


「お茶煎れるね!紅茶とコーヒーどっちが…っ」


張り切ってシンク前に立とうとした時、ずきりと痛みが走る。慎也君がそれを見逃すはずがない。ーああ、こんな時に。


「どうした?どこか痛むのか?」
「…ううん!えっと……ホラ、女の子特有のアレだよ」
「………ああ」


こう言っておけば慎也君もそれ以上追求できないだろう。本当の理由なんて言えるわけもない。


「俺が準備する。お前は座ってろ」
「え、でも…」
「コーヒー豆と茶葉はあるか?」
「ええと、その上の収納に」


せっかく訪れてきてくれたお客さんなのに、もてなす側になれず。

続けてティーカップやらスプーンやらがしまってある場所を聞かれ、手際よく準備をこなしていく慎也君。結局私が手伝いをすることはなかった。



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