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天使みたいな顔で、とんだ発言をする目の前のこの男性。彼は槙島聖護と名乗った。
「は、はぁ?なに言ってるんですか?ーっ」
驚きながらも上半身を起こそうとすると、途端に頭に鈍痛が走った。加えてこの吐き気。
間違いない、二日酔いだ。
「ああ、まだ動かない方がいい。昨日は相当飲んでいたようだし」
槙島さんの腕が伸びてきて、やんわりとベッドに再び横たえられた。
「今、水を持ってくるよ。少し持っててくれ」
「え…」
持って、と言おうにも、強い吐き気が邪魔をして言葉を発することができない。
沈黙が訪れた室内。
落ち着いて周りを見ると、ここは私の家ではない。
白と黒を基調とした、落ち着いたベッドルーム。サイドには大きな本棚があり、たくさんの本が収められている。
「ああ。僕は本が好きでね」
「…」
水の入ったコップを片手に戻ってきた槙島さん。私の様子を見て、小さく微笑みながらそう言った。
「飲めるかい?」
「…はい」
差し出されたコップを受け取ろうと手を伸ばしたけれど、それもやっとだ。指先が小さく震えているのがわかる。
すると槙島さんは私の手を取ってベッドに縫い付けると、自身もベッドに腰かけた。
「いい。僕にやらせてくれ」
「え…?」
意味が分からないままでいると、彼はコップの水を口に含み、そのまま私に覆いかぶさった。
と同時に唇に柔らかい感触が広がって、そこから生温い水が少しずつ流れ込んでくる。
「…んっ…は…」
「…これじゃ足りないかな」
口の端をぺろりと赤い舌で舐めると、再び口に水を含む槙島さん。彼がなにをしているのかようやく理解して、抵抗しようと空いた手で彼の胸板を押し返してもそれは無力に等しかった。
二回目の、水が流れ込んでくる感覚。
そのあとに彼の舌が侵入してきて、私の口内をねっとりと動き回るではないか。
「…っ、んん、…はぁ、…!」
「ん、ユリ…、いいカオだね」
ちゅ、と音を立てて唇を吸うと、槙島さんは満足げな顔をして離れていった。
「なにするんですか…っ、初対面でいきなり」
「さっきも言ったけど、今が初対面ではないよ。昨日も身体を合わせた仲じゃないか」
「う、嘘言わないでください!」
昨日は、確か、確か。
大学に行った帰り、友達と飲むことになって、慎也君へのあふれる想いを私が一方的に語り尽くした。
そこまでは覚えている。でもその後の記憶がない。…まさか。
「僕が夜道を散歩していたら、街中のベンチで君が泥酔しているのを見つけてね。とても歩けそうになかったから僕の家に連れてきたんだ」
「…それで…?」
「僕にしがみついて泣きじゃくるものだから、お陰でこちらも理性が飛んでしまってね。悪いとは思ったけど、僕も健全な青年なんだ。…そのあとはご想像通り」
ベッドに腰掛けて私を見下ろす彼は、くす、と綺麗に笑う。
途端にようやく羞恥心がこみ上げ、私は耳まで赤くなるのを感じた。
「恥じらっている姿がとても可愛かったよ。是非とももう一度、君を抱きたいな」
「〜っ!!!」
私はついに耐えきれなくなりベッドから飛び起きた。そして床に置かれていたバッグを手に取って部屋から飛び出した。
頭に鈍い痛みが走っても、ひどい吐き気が襲ってきても関係ない。
「ご迷惑おかけしました!!失礼しますっ!」
玄関で靴を履くと、彼を振り返りそう言い捨てて外へ出た。
「…またすぐに会うことになるよ、ユリ」
閉じたドアの向こうで、槙島さんが一人呟いていたことなど知る由もない。
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