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そして私は今、「槙島」と書かれた表札が掲げられた家のドアの前に立っている。
昨日は二日酔いと、羞恥心やら戸惑いやらが混ざり合った状態で走り去ったから気づかなかったけれど、改めて見てみるととんだ豪邸だ。
鍵だってIDカードのようなもので開けていて、近未来さながら。私がそんな暮らしに縁遠いだけなのかもしれないけど。
「…どうぞ?」
圧倒されて立ち尽くしていると、そんな私を軽く振り返った槙島さんはくすりと笑って中へ入るよう促した。
まずソファへ座るよう促された。だだっ広いダイニングキッチンに出迎えられて辟易する。
落ち着かず、辺りに視線を走らせていると、槙島さんは「コーヒーでいいかな」と呟くように私に問いかけた。
「いりません。それよりも私の定期入れを返してください」
「そう急ぐなよ。コーヒーの一杯くらい付き合ってくれてもいいだろ?」
「お断りします」
強い口調でそう返しても、槙島さんは涼しい表情のまま、コーヒーを煎れる支度を始めている。
「さっきも言ったけど、僕は君の事が知りたいんだ、ユリ」
「私のこと…?」
「そう。年はいくつで、今は何をしていて、趣味は何なのか」
カップやソーサーがカチャ、と擦れ合う音が響き、次第にコーヒーの香りがこの空間を満たしていく。
「それに、さっきの写真の男が君にとってのなんなのか、とかね」
「っ、そんなこと知ってどうするんですか」
「さあね。興味、…かな」
また小さく笑うと、槙島さんはコーヒーを二つ持って、目の前のローテーブルに置いた。そのまま、間隔を空けて私の隣に腰掛ける。
「そんなに警戒しないでくれよ。今日はただ本当に、話がしたかっただけなんだ」
「…」
「信じられないかな」
ミルクピッチャーを手に取りそれを二つともに注いだ。彼は何が目的で、何がしたいのだろう。その表情からは本当に何も読めない。
「ユリ。砂糖はいくつ入れる?」
「…2つで」
そう、と微笑む槙島さん。
どうやら長期戦になりそうだ、と思った私は、ため息を押し殺しながらそう答えた。
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