芳醇なコーヒーの香りと、窓から入ってくる日差しがこの広い空間を漂っている。

その中で私と槙島さんは横並びにソファに腰掛け、言葉を交わしていた。


「年齢は?」
「20です」
「学生なのかな」
「そうです」
「趣味はあるのかい?」
「これといって特には」
「家族と一緒に住んでいる?」
「はい」
「…ふうん」


まるで尋問みたいだ。
ひたすら質問を投げかけてくる彼に対し、私は淡々と答えていく。定期を返してもらって1秒でも早くこの場を去りたかった。


「嘘だね」
「…え?」
「実家暮らしではないだろ?」
「いいえ?ちゃんと家族と暮らしてますが」


内心ひやりとした。

本当は一人暮らしだけれど、実家暮らしと答えておけば多少は身の安全が保証されるかと思って答えたのに、どうして槙島さんはあっさりとその嘘を見抜いたのだろう。


「…なら、そういう事にしておこうか」


口角を上げて笑う槙島さん。
興味と言っていたけれど、私のことなど知って本当に何が楽しいんだろう。

すると彼はポケットに手を入れると、定期入れを取り出してそれを開いて見せた。


「じゃあ、この写真の男は?」
「…」


普通なら見惚れてしまうほど整っている容姿だというのに、その余裕たっぷりの微笑みが今は憎らしくすらある。






「…好きな人です」


嘘をついてもすぐにバレてしまうのだろう、そう思って私は素直にそう答えた。
槙島さんは「そうだろうな」と納得したように呟くと、その定期入れを閉じてまたそのまましまおうとした。


「あ…!」


急いでその定期入れを奪い取ろうとしたけれど、私の腕はあっさりと槙島さんの手によって制された。


「まだ返すとは言ってないだろう?」
「…もう十分話したじゃないですか。いい加減返し…」


言い終わらないうちに、槙島さんに強く抱きしめられて驚いた。微かに柔軟剤の香りが漂ってきて、その香りがいい匂いだと感じてしまった自分がいる。


「…離して、ください」
「悪いが断るよ」


耳元で囁くような声。
すぐにでもその肩を押し返してやろうと思ったけど、槙島さんの手が私の身体を滑るように撫でていき、唇が髪の毛にそっと触れたのを感じて、思わず固まってしまった。


「ちょっ…何もしないってさっき言って…!」
「気が変わったんだ」
「ふざけないで!私もう帰っ…」


次の瞬間、ぼすっ、と音がして、頭にクッションの感触。そして固定された両腕に、視界に広がる槙島さんの顔。


「…悪いね、ユリ」


押し倒された、そう理解したのも束の間。彼の鋭い両眼が私を見下ろしている。その金色の瞳は、獲物を捕らえたケモノのよう。


ー恐ろしいものが、今自分の目の前にいる。
そう感じた私の背筋にひやりと緊張が走った。



1/19
prev  next


戻る
Top