誘惑バスタイムA



共に脱衣所に入る。
槙島さんはためらわずに上に着ていたTシャツを捲し上げ、それをカゴに投げ入れた。

そしてすぐに着ていたトレーニングウェアのパンツに手をかけるものだから、私は慌てて視線を逸らす。すると背後から槙島さんの楽しそうな声がした。


「ユリ、脱がないと風呂に入れないよ」
「知ってます…!」
「そう。なら僕が脱がせてあげようか」


後ろから伸びてきた手が、私のブラウスのリボンをしゅるりと外す。それは重力に従って床に落ちていった。


「あっ…だめです!」
「だめなのかい?残念だな」
「ん…!」


槙島さんの指先が私の首筋に触れて、線をなぞっていく。慈しむように、ゆっくりと。
その感覚にびくり反応して思わず肩をすくませると、満足そうに笑った彼の吐息が私の耳にかかった。


「それじゃ、僕は先に入っているよ。それなら大丈夫だろう?」
「(大丈夫じゃないけど…)分かりました。あとから行きます」
「待っているよ」


脱衣が続行されたようだ。
衣擦れの音がして、ガチャリとバスルームへの扉が開かれ、それから閉じた音。

曇りガラス越しに槙島さんがシャワーを浴びているのが分かる。その影を見ただけで身体中が緊張するというのに、このまま中へ入ったら私はどうなってしまうんだろう。


けどここで逃げることはできない。
私は諦めてブラウスのボタンに手をかけた。








「ー…失礼します」
「ああ、待っていたよ」


立ち上る湯気。
白くて大きいバスタブの中にいた槙島さんはこちらを向いて微笑んだ。

一応バスタオルは巻いてきた。こんな明るい場所で肌を晒すなんて大胆なこと、私にできるはずもない。


「シャワー、浴びますね」
「君は汗をかいていないだろう?そのままおいでよ」
「は、はい…じゃあ」


彼の言葉に遠慮がちに頷いて、バスタブを跨ぐ。しゃがもうとすると、槙島さんの手が伸びてバスタオルの端を掴んだ。


「ー要らないね、こんなもの」
「え?あ…っ!」


ぐっと引っ張られたタオルは、あっけなく私の身体から離れていってしまった。それをバスタブの外に放ると、槙島さんは両腕を大きく広げて私の身体を抱き締める。
ばしゃん、と音がして、私の身体がお湯に勢いよく沈んだ。


「綺麗だよ、ユリ」
「槙島さ…んっ」


重ねられる唇。
浴室にいるせいか、その吐息はいつもよりも熱い。息継ぎも許さないほどの口付けに私の頭の芯はぼうっとしていくばかり。
上唇と下唇が交互に強弱をつけて吸われて、互いの唾液が混ざりあっていく。


「ん…っ、はぁ…」
「舌をだしてごらん」
「…ぁ」


言われるままに舌先をそっと出すと、それに強く吸い付く彼の唇。緩急をつけて甘噛みをされ、快感が身体を走り抜ける。


「んぁ…っ」
「ユリ。…好きだよ」
「っ!」


髪の先に垂れる滴。
熱さのせいでほんのり上気した彼の頬。
少し伏し目がちで、長い睫毛が彼の瞳に影を落としている。

ようやく唇が離れたかと思うと両肩をぐっと掴まれて、首筋にキスを落とされる。ちゅ、ちゅ、という音が繰り返し耳に響いた。


「…君は僕のものだ」
「っ…」
「ねえユリ、このままここで、僕に抱かれてみるかい?」


耳元で低く囁かれる、楽しそうな声。
その妖艶な微笑みに、もはや私の緊張感は爆発寸前だった。


「…ユリ?」
「槙島さ…わたし…もう…」


ぼんやり、視界が滲んでいく。
どうやらのぼせてしまったらしい。
頭に血が上るような感覚。熱くて頭がぼうっとしてとても苦しい。

くたりと力が抜けて、私は槙島さんの肩に身体を預けた。



1/40
prev  next


戻る
Top