連れ去りたい場所@



「なぁ、ユリ。明日は非番か?」
「え?はい、そうですけど…」
「そうか。なら頼みがある」


フー、と紫煙をくゆらせながら、狡噛さんは私を見た。


「俺と外に来てくれ」


そんな事を言われたのは初めてだった。
まあまだ監視官に着任して半年くらいのひよっこだからかもしれないけど。

狡噛さんのことだから、事件の捜査に何か役立つことを探しているのかもしれない。私はそう思い、翌日の昼頃、執行官隔離宿舎へと向かった。







「…なんでスーツなんだ」


迎えに行った彼に開口一番に言われたのがそれだ。


「狡噛さんこそスーツでいつも通りの格好じゃないですか」
「俺はこれかトレーニングウェアくらいしか持ってないからな。けどお前は服くらい持ってるだろ」
「持ってますけど…でもこれ、捜査の一環ですよね?さすがに私服じゃまずいんじゃないかと思って」
「…ハイハイ、なるほどね」


狡噛さんは自分の髪をぐしゃぐしゃとやりながら、小さなため息をついた。


「まあいいさ。行くか」
「…はい!それで、どこへ?」


狡噛さんの後について歩き出す。
公安局を完全に離れたところで、狡噛さんは立ち止まってこちらを振り返った。


「俺がお前を連れ去りたい場所へ」
「え…?」


意味がわからずに呆けていると、狡噛さんが私の手を取った。そして指を軽く絡ませてくるではないか。途端に私の顔は真っ赤に染まり、それを見た狡噛さんは少しだけ口の端を持ち上げた。


「ここ狡噛さん?!」
「行くぞ、ユリ」
「えっと、は、はい…?」


一体何処へ行くんだろう。
疑問符をたくさん浮かべながら、私は狡噛さんと共に歩き出した。








「…公園、ですね」
「ああ、公園だ」


連れられてきた場所は、公安局からしばらく歩いたところにある公園だった。公園といえど敷地は雄大で、池や噴水、芝生やガーデニングなどのホロがふんだんに使われていて、華やかな空間が演出されている。

狡噛さんに手を引かれて歩き出す。
噴水近くの空いているベンチを見つけると、2人でそこに腰を下ろした。


「少し待ってろ」と言われ、素直に頷く。
ほどなくして戻ってきた彼の両手には飲み物が握られていた。


「ほら」
「あ、ありがとうございます…」


私の好きなココア。狡噛さん、知っててくれたんだ。プルタブを開けてそれを飲むと、甘さが口の中に広がって、自然と笑顔になる。

ふと隣を見ると、私を見つめる狡噛さんの視線。その優しい眼差しに心臓が高鳴るのを感じる。


「狡噛さん、あの…?」
「ん?」
「捜査、始めなくていいんですか?こんなとこでゆっくりしてて…」
「ああ、いいんだ。というかまだ捜査だと勘違いしてるのか」
「へ?違うんですか」
「違うね。…そうだな、ここで一つ問題だ。一般的に、好意を持つ異性と共に1日を過ごす行為をなんという?」
「それは…」


ぱっと思い浮かんだのは、「デート」だ。
けど狡噛さんが私のことを好きであるはずがない。そんな素振りは一度も見せなかったと思う。

となれば何なのだろう。
うーんうーん、と首を捻っていると、いい加減焦れたように狡噛さんが「ハァ」とため息をついた。


「こういう事だ」
「…!」


真っ直ぐに見つめられ、顎を掬われる。
段々と近づいてくる狡噛さんの整った顔に、私はぎゅっと目を閉じた。


「あー見て!あそこのおにーちゃんとおねーちゃん、ちゅーしようとしてる!」
「コラ、静かにしなさい!」


近くを通りかかった親子。小さな子供が私たちを見て囃し立てた。その声で狡噛さんは小さく舌打ちをすると、私から身体を離した。


「ったく…次、行くぞ」
「は、はい!」


彼に倣って立ち上がる。彼に再び手をひかれ、そのまま歩き出した。


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