連れ去りたい場所B




お昼ご飯も食べ終わり、夕方に差し掛かってきた頃。自然な動作で狡噛さんは再び私の手を取り、歩き出した。




「最後に行きたい場所がある」
「…はい!」


勢いよく頷く。
今日一日、結局私が行きたかったところに狡噛さんは付き合ってくれた。私だって狡噛さんの行きたいところに一箇所くらい付き合わせて欲しい。


人通りがそこそこ多い繁華街の中を、特に何かに見向きもせずに進んでいく狡噛さん。
すれ違う女性が狡噛さんを見てヒソヒソと何か噂をしている。


「ねぇ見てあの人、めちゃくちゃかっこよくない?」
「背も高いし顔も整ってて…素敵」


見惚れて惚けてしまう女性や、振り返って狡噛さんの後ろ姿を見つめ続ける女性。
この容姿であれば彼女たちの反応は当然だ、と私は思った。


それに引き換え、手を引かれて歩く私の平凡さといったらどうだろう。ずば抜けて可愛いわけでも、スタイルが良い訳でもない。

周りから見たら「どうしてあんな子が」とか思われてるのかな…うう、そう想像すると結構へこむぞ。


「…どうした?」
「あっ、いいえ!なんでもないです」
「嘘だな。なにか言いたい事があるなら言ってくれ」
「え…と」


さすが狡噛さんはいつも鋭い。
私は少し俯いて、遠慮がちに口を開いた。


「その、狡噛さんは格好良くて素敵だから…その隣歩いてる私、きっと嫉妬されちゃうなって」
「…そんなこと考えてたのか」


横目で私を見下ろす狡噛さん。
その口元には笑みが浮かんでいる。


「関係ないな。俺はお前の隣を歩きたい」
「…え…」
「着いた。ここだ」


気づかないうちに目的の場所にたどり着いていたらしい。狡噛さんが見ている方向の建物を見ると、ホロで装飾されたシックな看板と、少し怪しげなネオンが光る外観。

ーいわゆる、ラブホテル。


「え、これって…」
「嫌か?」
「嫌っていうか、あの、どうしてこんなところに?」


頭の中がぐるぐると忙しない。
ここは普通、付き合ってる男女やそういう事を目的とした人たちが来るところではないのだろうか。

狼狽を隠しきれない私に、狡噛さんは追い討ちをかけた。


「ユリ。俺に抱かれるのは、嫌か?」
「ー…」
「鈍すぎるあんたでもいい加減気付いてんだろ。俺の気持ちなんざ」


繋いでいる手に少し力が込められる。
見下ろされているその瞳の奥に、情欲の色が確かに浮かんでいるのが見えた。


「はっきり言ってくれ。今ならまだ引き返せる」
「………ない、です」
「え?」
「嫌じゃ……ないです」


この鼓動も、火照る顔も、溢れるような想いも。全てが目の前にいる狡噛さんによって与えられているものだという事にようやく気が付いた。

どうしてもっと早く気がつかなかったんだろう。彼以外の人だったら必ず「いいえ」と答える自分が安易に想像できるというのに。



ほんの少し目を細める狡噛さん。
そして「わかった」と囁くように言うと、私の手を引いて建物の中へと進んでいった。


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