その猟犬、危険につき。



『…追い詰めたぞ。そこまでだ』

『犯罪係数オーバー300。執行モード、リーサルエルミネーター。慎重に照準を定め、対象を排除してください』

『ひっ…やめろ、やめてくれ!!俺は何も…何も悪くない!!シビュラがこの世界を狂わせたせいで、俺はー』

『死ぬ寸前まで自分を正当化か。…ご愁傷様』



狡噛さんがトリガーを弾く。
男の身体がみるみるうちに膨れ上がり、パァンと音を立てて破裂した。

辺りにぶちまけられた肉の破片や血液。
狡噛さんの口元は間違いなくー、嗤っていた。








「…今日の事件は、なんだか後味が悪かったですね」



執行官隔離宿舎にある狡噛さんの部屋。
黒いソファに腰掛けながら、私はぽつりと呟いた。

狡噛さんはインスタントのコーヒーを2つのカップに注ぎ、一つを私に差し出しながら応える。



「ドミネーターで撃つ直前にあいつが言ってた事が気になるのか?」

「いえ、そういうわけじゃ…」

「自分の行為を正当化するために、シビュラを批判しながら死んでいく奴は少なくない。深く考えずに忘れることだな」



ミルクも砂糖も入れずに、カップを傾けてコーヒーを飲む。私はブラックが苦手なので、ミルクも砂糖も失敬してそれらを中に落とした。

ティースプーンでそれをぐるぐると掻き回していると、じっと狡噛さんが私の事を見ていることに気がつく。



「狡噛さん?」

「俺が怖いか?」

「…!」

「ユリ、お前はすぐ顔に出るからな」



そう言いながら苦笑している。
眉根をほんの少し下げて、寂しそうに。



「そんなこと…!」

「ごまかさなくたっていい。自分がどんな人間かって事くらい、一番よく分かってる」

「……」



返す言葉が見当たらなくて俯く。
狡噛さんはまた一口コーヒーを飲むと、カップをテーブルに置いた。



「だがお前を手放すつもりはない」

「え…?っ…」



聞き返す間もなく、狡噛さんの顔が私の首筋に埋められる。そして湿った音を立ててそこに口付けを落としていく。



「…んっ、ゃ、狡噛さん…?」

「当然逃がすつもりもない」



熱い舌先が私の首筋を這う。
縋る場所が欲しくて狡噛さんの腕をぎゅっと掴むと、彼の指先は私のブラウスのボタンをそっと外していった。

そして鎖骨の辺りや胸元に強く吸い付いていく。


「っぁ…!」

「反抗的な猟犬に襲われる気分はどうだ?」



私の視線を捕らえてニヤリと笑っている。
その愉しそうなカオはどこか、ついさっき見たあの表情と重なって見える。ぞくりと背筋に何かが走ったのを感じた。


ぐっと顔を近づけられて、今にもキスしてしまいそうな距離。お互いの唇から漏れる吐息が混ざり合う。



「ユリ…お前は俺のものだ。覚悟を決めろ」

「……」



いま、彼の瞳に私はどんな風に映っているのだろう。怯えきった哀れな子羊?それとも一捻りで壊れてしまいそうな玩具?

返答に窮していると、狡噛さんは痺れを切らしたのか、私の唇を貪るように口付けを落とした。



「んんっ、…」



息も許されないような深くて濃厚なキス。
堪えきれずに距離を取ろうとしたら、頭の後ろに手を回されてそれを阻止された。


やがて私の身体はソファに沈められる。
狡噛さんは獲物を仕留めた獣のような瞳で、私を見下ろしていた。



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