彼シャツと雷雨
「…ブカブカ、ですね」
「男モノなんだから当然だろ」
狡噛さんはクローゼットの引き出しを締めると、私の方を見ながらそう答えた。
彼に貸してもらったワイシャツは、私のお尻まですっぽり覆う丈の長さ。それに袖も長くて、捲らなければ爪先まで隠れてしまうほどだった。
定時で切り上げて帰途につく途中、大雨に降られた。その上雷まで鳴ってきて、傘を持っていなかった私は急いで公安局へ踵を返したのだ。
とりあえず雷雨が過ぎ去るのを待とうと食堂フロアまで足を運んだところ、食事を摂りに来ていた狡噛さんと偶然鉢合わせたというわけだ。
見るに耐えないくらいにぐっしょりと濡れた私の全身を見て、「俺の部屋に来い」と声をかけてくれた。
「ほら、タオルだ」
「あ。ありがとうございます」
白いタオルを手渡されて、私はお礼を言ってそれを受け取る。わしゃわしゃと雨に濡れた頭を拭いていると、狡噛さんはそんな私の姿をじっと見下ろしている。
「どうしたんですか?」
「ああ、…いや。いい眺めだと思って」
「ッ、はぁ?!」
「自覚しろよ。お前は今どんなカッコだ?」
「どんなって…」
濡れたスーツとブラウスは乾燥機にかけさせてもらっている。そのため下着の上から狡噛さんのワイシャツを一枚羽織らせてもらっただけの状態だ。
「たしかに薄着ではありますが…何も思いませんでした」
「…自覚なかったのか」
「男性の好みには疎いもので…。あ、そうだ!縢君にも聞いてこようかな、このカッコどう思うってー」
「待て、ユリ」
部屋のドアに向かって足を踏み出した私の腕を、狡噛さんはがっしりと掴んで引き寄せた。
「縢には見せるな。というかそのカッコで他の野郎の前に出るな」
「…たまりませんか?」
「ああ。そそるね」
そこでやっと、私を見下ろす瞳の奥に熱情が込められている事に気づく。
狡噛さんの顔が近づいてきて、ぐっと唇を押し付けられた。
「…んん、」
「責任取ってもらうぞ」
「え?!」
狡噛さんの手が、シャツの前ボタンをぷちぷちと外していく。下着が覗く程度まで外れたところで、狡噛さんは身をかがめて私の首筋に舌を這わせた。
「…ぁっ、待っ…」
「そいつは無理な注文だ」
ちゅ、と鎖骨の辺りを吸いあげ、肩口にも音を立ててキスを落としていく。厚い胸板を押し返しても、彼の力の前では無力に等しい。
もう一度私にキスを落とすと、彼はニヤリと口の端を持ち上げた。
「残念だが、当分雨は止まないぜ。ユリ」
その表情が余りにも色っぽくて、艶めいていて、私は頭がくらくらする。
時折雷の音が外で響く中、私と狡噛さんは熱い吐息を溢しながら肌を重ね合わせた。
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