融解を望んでも
私が槙島聖護という人間を心の底から愛していることについて、まずどこから説明しよう。
天使のような整った顔立ち?
すらりとした長身に、綺麗な手?
脳を鍛えるために本をよく読むところ?
…いくらでも述べられるけれど、それは口にした瞬間とても陳腐なものになってしまいそうで。
それくらい、彼という存在は形容し難く、表現するのが難しいと感じる。そしてそれらを全て愛しているという私の心情も、とても表し難い。
「…今は、何を読んでいるんですか」
「これかい?」
茶色い背表紙の分厚い本。
私の問いかけに、それを読むのを中断する槙島さん。
私にタイトルを見せてくれたけど、英語表記でまるっきり読めはしない。
「すごいなぁ、英語も読めるんですね」
「興味を持って取り組めば、そんなに難しい事でもないさ。ユリも読書に興味が?」
「……ええと」
正直、活字にはあまり強くない。
恋愛小説やミステリー小説なら何冊か読んだ事はあるけど、哲学書や自己啓発書、歴史の本や詩集などは読んでいると眠くなってしまう。
でもここで首を振れば、彼に呆れられてしまうだろうか。少しでも近づきたいと、日々思っているのに。
「その顔は、ノーだね」
「……う」
「ユリ。君は僕により近付き、より理解しようとしているようだけど、それは必要ないよ」
「どうしてですか?」
「個体は個体に過ぎない。解け合う事はできないからね」
パタン、と本を閉じる。
解け合うことができない。つまり、解り合うことは不可能だと槙島さんは言いたいのかもしれない。
「…だが、こうして君に触れることはできる」
頬に添えられる手。
その美しい金色の双眸が私に向けられる。
徐々に近づいてくる槙島さんの顔に、私は息をするのも忘れて魅入ってしまう。
親指と人差し指で顎をすくい取られる。
惚けている私を見て彼は微笑みを溢した。
「…ユリ。キスをする時は、目を閉じるのが一般的じゃないかな」
「あ!…ごめんなさい、つい」
「うん。いい子だ」
満足そうに笑う気配。
目を閉じると、すぐに唇が柔らかい感触に覆われる。時が止まったようにも思えたけれど、それはほんの数秒の出来事だった。
軽いリップ音を立てて唇が離れていったのが分かると、私は目を開けた。
「槙島さん」
「なんだい?」
「…いえ。なんでもないです。読書の邪魔をしてごめんなさい」
「いいんだ。気にしないで」
優雅に微笑んで見せると、彼は本を手に取り、再び文字を目で追い始めた。
「貴方を愛しています」
そう告げられたらどんなに楽だろう。
その一言はどこまでも重く、どこまでも遠くにある。
胸に渦巻く果てのない感情を想い、私は憂いた。
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