所有欲A
「ま、待ってくださ…!」
「…ん?」
解いたネクタイを床に投げ捨て、ワイシャツをもあっさりと脱ぎ捨てて半裸になった狡噛さん。
その狡噛さんが今まさに私に覆いかぶさろうとしていたところだ。
「あ、あの、これって…そういう事、って思っていいんでしょうか…?」
「そういう事って?」
「えっと、だから…」
その先の答えに詰まる。
「狡噛さんは私のことが好きなんですか」なんて聞けるはずもない。第一、違っていたら私はもう一生立ち直れる気がしない。
狡噛さんは加えていたタバコを指先で挟むと、フー、とまたひとつ煙を吐き出した。
「なら俺からも聞こうか。ユリ、アンタがこの状況になっても逃げないって事は、そういう事だと思っていいのか?」
「え、えっ…と…」
「俺の勘違いだって可能性もあるわけだ」
なぁ?と言わんばかりに、こちらを見て笑みを浮かべている。それを見て私はすぐに理解した。
狡噛さんは私の気持ちなんて、とっくに気づいていたんだ。いつからかは知らないけど、確実に。
「…そ、そういう事だと、…思ってください…」
「ん?そういう事って、どういう事だ?」
「!狡噛さん、分かってるくせに…ずるい…!」
「確かにずるいな。…けど俺は」
手にしていたタバコの先をぐりぐりと灰皿に押しつける。そして今度こそ狡噛さんは私の両肩に力を加えて、ソファに身体を沈めた私の上に文字通り馬乗りになった。
「ちゃんとあんたの口から聞きたいんだ、ユリ」
「…!」
「頼むよ」
ずるい。ほんとにずるい。
好きな相手にそんな風に頼まれて、熱のこもった視線を送られて、断れる人なんているはずもない。
恥ずかしくて恥ずかしくて、どくどくと心臓が高鳴っているのが分かる。今の私は耳までも真っ赤だろう。
そんな自分の顔を、狡噛さんの綺麗な顔がじっと見下ろしている。
「…きです。狡噛さんが…すき、です…っ」
最後の方は、声が震えて、ほぼ消え入りそうになっていた。ちゃんと聞こえただろうか。
狡噛さんの顔を見るのが怖くて、私は身を固くして返事を待っていた。
「…フ、ははっ」
「!なに笑ってるんですか、人が一生懸命…」
「いや、悪い。嬉しくてついな」
「…え」
ー今まで見たことのない顔の狡噛さんが、そこにいた。こんなに嬉しそうに、柔らかく笑っているところを、私は見たことがない。
少しだけ頬を染めて、まるで少年みたいに笑ったんだ。あの狡噛さんが。
「…ありがとな、ユリ」
ぎゅ、とそのまま抱き締められる。
密着した部分から、心臓が早鐘を打っているのが伝わってきて、愛おしさが込み上げてくる。
頬と額にちゅっと音を立てて口づけをくれると、真っ直ぐに私と視線を合わせた狡噛さんは、こう囁いた。
「…俺もだ。ずっと好きだった」
思いが溢れて、私は思い切り狡噛さんに抱きつく。
初めて直に触れた彼の背中は、固くて、でも温かくて、想像していたよりもずっとたくましかった。
「これで互いの意志が確認できたな」
「そうですね。…って、ちょ、狡噛さん?」
彼の片手が私のブラウスのボタンをぷちぷちと外していく。
「なんだ?」
「あの、何して…」
「決まってんだろ。今から抱く」
「え、ええ?!」
「これ以上焦らすな」
「っん…」
狡噛さんの舌先が首筋から鎖骨にかけてゆっくりと下っていく。下着の上から胸の形を確かめるように揉みしだかれて、私は吐息を漏らした。
「優しく、してくれますか」
「…努力するよ」
私の問いかけに、狡噛さんは目を細めて笑みを浮かべる。
再び近づいてきた彼の顔に、私は誘われるように目を閉じた。
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