flagile




「痛…ッ」

「少しだけ我慢してください。すぐに終わりますから」



医務室にて、私は医師から手当てを受けていた。白衣を羽織った先生の宥めるような声が白い清潔な室内に漂う。


潜在犯を追い詰めた際、血迷って暴走した男に工具で思いきり殴り付けられ、それが肩口を強打。

出血こそ少なかったものの、鈍い痛みとともに私の右肩にはくっきりと打撲痕が滲んでいた。




「…ありがとうございます、先生」

「うん。一週間程度で完治すると思いますよ。跡も残らないよう処置してある」

「はい」

「それじゃ、しばらくここで休んでいってください。私は他の患者を見に行くのでこれで失礼します」

「わかりました」



診察と処置を終えて、私ははだけていた患者服を着直した。そしてベッドに再び頭を預けて息を吐く。


身体に残る疲労感。
そして肩口で波打つ鈍痛。

…人は血迷うと、時にスパナで他人を殴るのか。

また一つ自身の経験が増えた。そんな事を思いながらぼうっと天井を見つけていた時、静かな機械音を立てて入り口が開いた。



「調子はどうだ、ユリ」

「狡噛さん…」


彼は歩を進めると、ベッド脇の椅子に腰掛けて私を見下ろした。



「傷の具合は?」

「大丈夫です。一週間くらいで完治するって先生が言ってました」

「…そうか」



安心したように息を吐いた。
軽症なのにわざわざ医務室までお見舞い来てくれる狡噛さんは、見た目や言動とは裏腹にとても優しい心の持ち主だと私は思う。



「…ユリ」

「?」

「すまなかった。俺があの時先行して犯人を撃っていれば、こんな事には…」

「やめてください、狡噛さんのせいじゃありません。あれは私が警戒を怠ったのが原因です」

「…だが」

「跡も残らないように先生が処置してくれましたから。本当に大丈夫ですよ」



ね?と微笑んで見せる。
けれど狡噛さんの表情は晴れないままだ。



「違う。俺が、俺を許せないんだ」

「…?」

「必ずお前を守ると決めたのにこのザマだ。
今回は運良く打撲で済んだかもしれないが、もし犯人が持っていたのがナイフや包丁だったら?もしそれで致命傷を与えられていたら?」



ぎゅ、と彼が拳を握りしめた。
こんな風に怒りをあらわにした狡噛さんを間近で見るのは、これが初めてかもしれない。



「お前が危険に晒される度に、息が止まるような思いがするんだ。…だから頼む。無茶して自分の身を犠牲にする事だけはやめてくれ」

「…狡噛さんは、本当に優しいんですね」

「優しさだけじゃお前を守れない。今回の件で良く分かったよ」



悔しさが滲んだような、後悔が滲んだような瞳がじっと私を見据える。

そんな顔をしないで欲しい。
私はこうして安否を心配して貰えるだけで十分に幸せ者なのに。



「…ユリ、俺は」

「はい?」

「いや、なんでもない。…いつか自分を認められる日が来たら、その時伝える事にする」

「……」



私の手に狡噛さんの手がそっと重ねられて、軽く握り締められる。それは思ったよりも高い体温を宿していて、小さく胸が音を立てた。



「…じゃ、行くよ。ギノに呼ばれてるんだ」

「はい。お見舞い、ありがとうございました」

「ああ」


狡噛さんは最後に軽く笑って、医務室を去って行った。

彼が触れていた私の手にはまだ、うっすらと体温が残っている。


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