黒猫の誘惑@
「お、ユリちゃんお疲れー…って、何そのカッコ?着替えたの?」
「うん。これから飲み会があって…友達がお洒落なお店予約してくれたから、ちょっと頑張って背伸びしてみたの。…ど、どうかな?似合ってる?」
「すんげえ可愛い!いいなー、こんなカワイイ子と一緒に飲めるなんて。俺も付いて行きてえよ」
勤務を終えた後、私は持ってきていたパーティ用ドレスに着替え、そのまま公安局を後にしようと廊下を歩いていた。
するとちょうど食事を摂るために宿舎から出てきたのであろう縢君と鉢合わせたのだ。そして冒頭の会話に至る。
「でもさー、飲み会行くってこと、ギノさんには言わないほうがいいよ?」
「え、どうして?」
「そりゃー…」
やたらニヤつく縢君。
その理由が分からなくて首を傾げていた時、少し遠くから「ユリ、縢」と声が聞こえた。
「宜野座さん、お疲れ様です。今日は夜勤ですか?」
「ああ。…ユリ、その格好はなんだ?」
「ギノさん、聞かない方がいいと思うっスよ〜」
両腕を組みながら、からかうような口調で言う縢君。宜野座さんはジロリと彼を睨み、「黙っていろ。お前には聞いていない」と低い声で言った。
「こえーこえー。俺、退散するっス」
「あ、縢君…」
「奴は放っておけ。で、その格好はなんだ」
「実はこの後、飲み会がありまして。久しぶりに気合い入れてみちゃいました」
「飲み会だと?」
何やら不満げな視線を送られる。
そりゃそうか、これから宜野座さんは夜勤で大変だっていうのに、こんな浮ついた格好して出かけるなんて、向こうからしてみればいい気はしないだろうな、と考える。
「…男もいるのか」
「え?いえ、友達となので、女の子だけですけど」
「そうか、ならいい。
…だが夜道には気を付けろ、夜勤でなければ俺が車で送って行っても良かったんだが」
私の勘違いだった。どうやら面白くないわけではないらしい。
むしろ「知らない男に声をかけられてもついていくなよ」「酒に飲まれるなよ」等、いろいろな言葉を掛けてくれる。
「…ふふ」
「なんだ?」
「心配してくれてるんですね。なんか嬉しいな」
「…心配もするさ」
「?」
「今の君は…その…、魅力的だからな。もっと自覚を持て」
「!…」
「…ドレス、似合っているぞ」
宜野座さんはそう言葉を残すと、くるりと踵を返してその場を去って行った。
ちらりと見えた彼の耳がほのかに染まっているように見えたのは、私の気のせいだろうか。
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