酒は飲んでも?@




「あーあ。ユリちゃん、そんなに酔っちゃって」



縢がからかい口調でそう言ったが、彼自身も顔が真っ赤になっている。酒に弱いくせに嗜むのが好きな野郎だ、と思った。


なんとなく、たまには2人で飲むかという話になり、俺は縢の部屋に邪魔している。それともう1人、俺の隣にはユリがいた。



なぜ彼女がここにいるのかというと、俺と縢の話を横で聞いていたいと言ってきたからだ。

別に大して面白い話はしないし、期待はするなと言っておいたが、ユリは俺たちの会話に耳を傾け時折相槌を打ちながら、それなりに楽しんでいるようだった。



『せっかくだしユリちゃんも飲もうぜ!ほら』

『えっ、でも…私お酒弱くて』

『いーからいーから!ビンテージ物の酒なんて滅多に飲めないんだからさ』



すでに軽く酔っ払っていた縢はグラスに氷を入れて、そこに酒瓶を傾けた。「じゃあ少しだけ、いただきます」と言ってその一杯を飲んだユリ。


最初はただ眠そうな表情をしていただけだと思っていたが、気がつくと俺の肩にもたれかかって何かわけのわからない事を呟き出したのだ。



「狡噛さん……たばこ、すんごい似合いますよねえ…」

「は?」

「わたしも吸ってみたいです〜ねえー狡噛さんー」



そう言いながら俺の胸ポケットをまさぐろうとしてくる。縢はすっかり出来上がっていて、ユリを止めようとするどころかこの光景を見ながらけらけら笑っている始末だ。



「はは!ユリちゃんカッワイー」

「おい縢、お前もそこらへんにしとけ。明日も日勤だろ」

「へいへい。コウちゃんがそう言うならあ」



そしてソファにゴロリと横になりだした。
ユリはユリでなぜか俺のネクタイを緩めようとしだしたし、この状況に頭を抱えたくなってくる。



「おいユリ、俺も明日は日勤なんでな。そろそろ行くぞ」

「はあい…行きましょ、お空へしゅっぱーつ」

「………ダメだな、これは」



やれやれ、と立ち上がる。
今日はどこまでお出かけですかあ?とうわ言のように呟き出したユリの身体に手を回し、俺は彼女の身体を抱き上げた。



「邪魔したな、縢。明日日勤でな」

「あーあ、見せつけてくれちゃって…ちぇっ、いーよいーよ、俺もうふて寝すっからー」

「おう、寝とけ」



そう言い残すと、俺は縢の部屋を出て行った。







同じ宿舎内の自室に入り、とりあえずユリの身体を下ろしてソファに座らせる。けれど彼女はもう身体に力が入らないのか、くたりとそこに横になった。


顔は真っ赤で目は虚な状態だ。
酒に弱いとさっき言っていたが、まさかここまでとは思わなかった。わかっていたら飲むのを止めていたのに。



「待ってろ。今水持ってくるから」



冷蔵庫にあるペットボトルを手に取り、再び彼女の元に戻りキャップを開けてやる。それを飲ますために身体を起こしてやろうと肩に触れると、ユリがぼんやりとした目でこちらを見上げた。



「あっ、狡噛さんだあ…ふふー」

「さっきから一緒にいるだろ。ほら、水飲んで少し…、」



休め、とその後に続けようとしたとき、彼女がぐい、と俺のネクタイをを引っ張った。

必然的に俺はバランスを崩して彼女に覆いかぶさる体勢になる。



「おい、ユリ…っ」



言葉は続かなかった。
なぜなら彼女が、俺の頭に手を回して引き寄せたからだ。

唇同士が重なる柔らかい感触。
お互いの口から酒の香りが漂い混ざり合った。



「…へへ、はじめて私から、狡噛さんにキスしちゃったあ…」



酒のせいなのか照れのせいなのか、頬を染めながら、満足そうに笑うユリ。
薄く開かれた彼女の唇が、俺の唾液で濡れているのが見える。


ー俺の頭の中で、何かが外れた音がした。



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