Melty
「縢君!お願いがあるの」
「ん?どうしたの急に」
「お菓子の作り方、教えてくださいっ!」
明日は私が刑事課一係に配属されて半年。
節目というには微妙かもしれないけれど、私は日頃からお世話になっている一係のみんなに何かお礼がしたいと思っていた。
「別にいーけど…いつ?」
「今日」
「この後ってこと?急だねえ」
「…ダメかな?」
「いーや、可愛いユリちゃんのお願いを、この俺が断ると思う?」
縢君は椅子に座りながら、私を見上げてニッと微笑んだ。
「材料は買ってあんだよな?そんじゃ、18時に俺の部屋集合って事で」
「…うん!ありがとう!」
嬉しくて顔を綻ばせると、縢君は「ん、後でね」とひらひらと手を振ってくれた。
「んで、何が作りたいワケ?」
「チョコレート!」
「へえ。また古風な」
「古いかな?みんな甘いの苦手だったりする?」
「そんな事ねえよ。ユリちゃん手製ならみんな喜ぶって。ま、コウちゃんととっつぁん辺りには甘さ控えめのモン作ってやりゃいーんじゃね?」
「ホント?じゃあそうする」
「おう。んじゃ手始めに湯煎すっか」
「ゆ、ゆせん?」
「おいおい、まさか湯煎も知らねーの?」
これだから現代ッ子は困るねえ、なんて笑いながら鍋とボウルを取り出す縢君。
鍋にお水を入れて火をつけて、砕いたチョコレートをボウルに放り込む。
「でも縢君、私と二つしか歳違わないじゃん」
「そんだけ違えば充分なの」
「そんなもんかなあ…」
なんとなく負に落ちないまま、溶け出したチョコレートに視線を落とす。縢君はそれを横目に眺めながら言った。
「そんでさ、お礼に何くれんの?」
「へ?」
「菓子作りに協力したお礼。まさかなんにも考えてなかったとか?」
「………うん」
「ふうん?じゃ、俺が勝手に貰っちゃおっかな」
「え…、え?」
「みんなよりも一足お先に、ね」
縢君はボウルに人差し指をいれ、チョコを軽く掬い取った。そしてそれを私の唇に軽く塗りつけると、もう片方の腕で私の腰をぐっと引き寄せる。
気づいた時には縢君の顔がすぐ近くにあって、あっと思う間もなく唇が重ねられた。
「…ッ、ん」
「へえ。美味いじゃん、このチョコ」
「ちょっと、何するの縢君…離してよ」
「ダーメ。まだ足りねえよ」
再びチョコを救いとると、今度はそれを自分で舐めとって見せた。そして再び唇が合わさる。
油断して薄く開いた口から縢君の舌がねじ込まれ、私の口内へと侵入する。それと同時にチョコレートの甘い味と香りで満たされたけれど、私の意識は縢君の舌の動きに持っていかれていた。
「んっ、んん…っ…」
「…は、やらしー声。止まんなくなっちゃうじゃん」
「…ぁ…」
くちゅ、と湿った水音が脳に響く。
執拗に動き回る舌にくらくらして、足の力が抜けそうになる。
「…おっと、大丈夫?ユリちゃん」
それに気づいたのか、縢君は腰を抱き抱えるようにして支えてくれた。
言葉こそ心配をしているように聞こえるが、その表情はどう見ても至極嬉しそうだ。
「そんなに良かった?俺のキス」
「……ばか」
「ごめんって。怒んないでよ」
頬に軽くチュ、とキスを落とされる。
私が息を整え終わったのを確認すると、縢君は完全に溶け切ったチョコレートを見て火を止めた。
「続きはこの後ね」
「…っ!」
含みのあるウインクを向けられて、私はこの後に起こるであろう出来事を覚悟した。
それはきっとこのチョコレートよりもずっと、甘い味がするのだろう。
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