お一人様のススメB



翌日、宜野座さんは13時よりも少し早い時間に車で迎えに来てくれた。そしてそこからさほど遠くない距離にある彼の家にお邪魔させていただいた。

部屋に入るとまず愛犬のダイムを紹介してくれて、趣味であるという硬貨のコレクションも見せてくれた。

それから一息つこうという事になり、私は現在リビングのソファに腰掛けている。





「ユリはコーヒー派、だったよな」

「そうです。…知っててくださったんですね」

「ああ。いつだったか、局内の食堂でそんな会話をしたからな」



そう言いながら、宜野座さんはテーブルの上にコーヒーを置いてくれた。私がブラックが苦手だという事も知っていてくれたのか、ミルクピッチャーも横に添えてくれる。


どこかで買ってきてくれたのか、クッキーやマドレーヌが乗ったお皿も置いてくれた。

そしてソファに座る私の隣に腰掛けると、自身のコーヒーもコトリと前に置く。



「…その服、この前買っていたものだな。着てきてくれたのか?」

「!はい、そうです。…どうですか?」

「その……。とてもよく似合っていると思う」

「!!」



横目でこちらを見ながら、ぎこちない口調で褒め言葉を述べてくれた宜野座さんに、私は思わず顔が熱くなる。



「…すまない、実はほとんど女性経験がないんだ。こういう時、縢ならもっと気の利いた言葉を言えるんだろうが…」

「いえ!とっても嬉しいです…。って、ええっ?!ほとんどお付き合いされたことがないってことですか?」

「…そうだ。やはり女性の気持ちに鈍感な男というのは好感度が下がるか?」

「そんな事ないです、びっくりしただけで…。でも、宜野座さんは格好良くて頭もいいから、みんな近寄り難かったのかもしれませんね。私も、素敵だなっていつも思ってます」



私はカップを掌で弄びながらそう話した。誇張など全くない、本音だ。

こんなに身長が高くてスタイルが良くて、顔立ちも綺麗で頭も良くて。パーフェクトとしか言いようがない。



「……」

「宜野座さん?」

「……っ、なんでもない」



急に黙るので不安になり、カップから目を上げて隣にいる宜野座さんの顔を見上げる。

すると彼の頬は真っ赤に染まっていて、それを手の甲で必死に隠そうとしている姿が目に入った。



「……もしかして、照れてるんですか?」

「違う!決してそういうわけでは…っ」

「……ふふ」



宜野座さんが照れた顔、初めて見ちゃった。
そういう言うと、彼は困ったように眉根を寄せた。



「おかしいか?」

「いえ。宜野座さんのそんな余裕のない顔、見られると思ってなかったので」

「…余裕なんてないさ。君の前では、いつだって」

「…?」

「情けない話だ。こうして隣にいるだけで、緊張が止まらない」

「ッ…」



ハァ、と小さなため息を吐く宜野座さん。
そんな姿がとても愛おしく思えて、私はそっと彼の手に自身の手を重ねた。



「ユリ…?」

「私、これからもっともっと、宜野座さんの事を知っていきたい。私、貴方のことが大好きになれる気がするんです」

「………いいのか、俺で」

「…いいえ。宜野座さんがいいんです」

「!…」



宜野座さんの手が小さく揺れて、それが伝わってくる。私はまっすぐに彼の瞳を見据えながら言った。



「私…宜野座さんのことが、好きになっちゃいました。単純なヤツだなって思いますか?」

「いいや。俺からしてみれば、ようやく振り向いてくれたか、と言った心情だ」

「ようやく…?」

「…俺はずっと前から、君を見てたからな」

「え!そうだったんですか?!」

「全く…、君は鈍感すぎる。だが、そんなところにも俺は惹かれたんだ」



そして宜野座さんは優しく笑った。
ゆっくり顔が近づいてきて、唇同士が触れ合う。
まだ近い距離のまま、「これからよろしく頼む、ユリ」と告げられた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」と返事をする。
口元に笑みを浮かべながら、宜野座さんは私の身体をそっと抱き締めた。



密着した箇所から彼の心音が伝わってくる。
それは思ったよりもずっと早鐘を打っている事に気付いて、私は彼の背中に手を回し、慈しむように優しく二度、撫でた。



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