はちみつココア
「狡噛さん!ココア淹れましたよ」
「…頼んだ覚えがないんだが」
部屋に来ていきなりコンロの前に立ち、鼻歌をうたいながら何をしているのかと思えば、そういうことだったのか。
ユリは「どうぞ」と顔を輝かせながら、マグカップを俺に差し出した。
「最近、すごく美味しいココアの粉を見つけたんです」
「そうか」
「今まで私、いつも適当にお湯を沸かして注ぐだけだったんですけど、ミルクをちゃんと温めて淹れると、美味しさが倍になることに気が付きました」
「…俺は基本的にコーヒー派だと、知ってると思ってたが」
「知ってますよーっ」
ユリは俺の隣に座り込むと、自分の分のココアにそっと口を付けた。そして一口飲んで大きく息を吐く。
「はぁー、幸せ。狡噛さんも飲んでみてください」
表情を綻ばせてココアを堪能している。
そんなユリがとても可愛らしく思えて、俺は彼女の頭をそっと撫でてから、手渡されたマグカップをゆっくりと傾けた。
ふわりと広がる甘いココアの香り。
ミルクと…それにほんのりとはちみつの味がする。
「…美味いな」
「でしょ?」
ふわりと微笑んだユリ。
彼女の顎に手を伸ばして上を向かせると、その柔らかくて甘い唇に自身の唇を重ねた。
「…たまには甘いのも、悪くない」
少し驚いて、そして照れた表情のユリ。
もっとその唇を味わいたくて、今度はもっと深く口付けをする。
「ん…。ココア、冷めちゃいますよ」
「そうだな。また淹れてくれよ」
「…はい」
照れた様子の彼女も、また愛おしい。
その小さな額に唇を寄せると、俺は小さく微笑んだ。
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