幻想の朝にA※

身に纏っていたルームウェアはとっくにベッド下に放られた。

ブラのホックを外されて、胸に開放感が広がる。慌てて腕を前にして隠そうとしたけれど、無意味だということは分かっていた。


「なぜ隠すんだい?」
「…だって…こんな、明るいうちから…」


カーテンの隙間から差し込んでくる光。
まだ完全に明るくなりきっていないところをみると早朝なのだろう。…6時前、いや、5時ごろなのかもしれない。

クス、と彼は笑う。
そしてその綺麗な手を私の頬に添えてゆっくりと撫でる。


「君の裸はもう何度も見ているよ、ユリ。多少明るかろうが、今更隠す必要はないと思うけどな」
「でも…やっぱりもっと暗くないと恥ずかしてくて」
「大丈夫。君は綺麗だ」


あ、と思う間もなく、槙島さんが私に口付けを落とす。腕をするりと退けられて、指先で胸の頂を弄ぶようにされると、それだけで甘い吐息が漏れてしまう。


「んんっ…ぁ、」
「…僕はね、性欲が人並み以下だという自覚はあったんだ。街に溢れる女性や、テレビに映る女優やモデルを見ても、何も感じなくてね」


ちゅ、と乳首を吸われる感覚。
腰のラインをするすると撫でていく手。身体のあちこちに快感を走らせるその指先は、そのままショーツへと達した。


「でもね、ユリ。君は何度抱いても足りない」
「え…」


片手でシャツのボタンを外し、緩慢な動作で槙島さんはそれをベッド脇に放った。

服の上からは想像もつかないような引き締まった身体。鍛えられた筋肉。透き通るような白い肌。


金色の瞳に見下ろされて、その美しさに私は息を呑む。まるで天才の画家が描いた、一枚の絵画のようだとすら思える。


「君とのセックスは快感だ。いつだって僕を滾らせてくれる」
「…っ!ぁ、だめ…」


ショーツの上から、ぐりぐりと指先が刺激する。すでにしっとりと濡れているそこは、下着の上からでは物足りないと主張しているようだった。

どこか性急な動作でショーツすらも脱がされる。すると彼は私の膝を広げ、そこに顔を伏せた。


「…んぁっ…、やぁ、…っ、ぅ」
「ん…こんなに濡れて、本当に可愛いね、ユリ」


彼の舌先が巧妙に動き、唇が蜜を吸い上げるたびに、湿った音が部屋に響く。


「ここだろう?」
「っあぁ…、ん!」


彼は私の弱いところを全部知っている。
そこを繰り返し舌先で責められると、正気でいられなくなってしまう。


「やぁ、…っ、やめ、ぁ、あ、…っ!」


やがてぞくぞくと快感が身体中を支配して、それが頭のてっぺんまで登りきった。びくびくと身体が跳ねて、呼吸を荒げながら私はあっさりと達してしまった。


「はぁ…、槙島、さん…私、も…だめ」
「ああ。僕ももう…限界だ」


スラックスを脱ぎ、下着も脱ぎ捨てる。
すっかり硬くなって主張している彼自身を入り口に当てられただけで、私のそこは「早く欲しい」とでも言わんばかりに、またとろりと蜜を溢す。

ぐぐ、と押し入ってきたその質量に私は息を吐く。熱いそれは、ゆっくりと、けれど確実に私の中へと収まった。


「痛くないかい?」
「んっ、大丈夫…です…」
「…ユリ」


じっと見下ろされる。
何かいいたそうにしていたけれど、言葉よりもこの方が早いと言わんばかりに、すぐに槙島さんの顔が降りてきた。

甘い口付け。
触れ合った部分からお互いの息が漏れて、甘美な空間を揺るぎないものにしていく。


「…ふぁっ、んん…っ!」


口付けをしたまま、槙島さんは律動を始めた。前後運動をするたびに、擦れ合うそこから快感が溢れ出していく。


「…くっ…。は、ユリ、ユリ…っ」
「ぁっ、あ、あぁんっ、槙島、さん…!」


互いの名を呼び合って。
次第に激しくなっていく腰の動きが与える快感に溺れていきそうになる。


「僕の背中に、…手を」
「…っん、ぁあ…っ…」
「怖かったら爪を立ててもいい。悪いが…今日は余裕がないようだ」


言葉通りだった。
眉根が寄せられ、少しだけ上気した顔。時折彼の口から漏れる声に、思考回路は止まる寸前だ。


「ぁあんっ、ゃっ、ぁあ、も…はぁ…!槙島さ…!」
「…ッ!」


私の頭に白い漣のようなモヤがかかって意識が遠のきかけたのと、彼が私の中で欲望を吐き出したのは、ほぼ同時のことだった。





うっすらと目を開けると、隣で眠る彼の顔があった。朝日に照らされながら、規則正しい呼吸を繰り返している。

顔に影を落とすほどの長い睫毛と、輝くような銀髪。すっと通った鼻筋。
本当に天使のようだと、何度見ても思う。



彼の腕は私の身体にゆるく巻き付けられている。寝ている間も隣にいて欲しいと言われているかのようで、それがとても幸せだと感じられた。


ー美しい朝だ。
この鼓動と温もりと、それに彼に抱かれた幸福感に包まれながら、私はしばらく彼の寝顔を眺めていた。



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