10
聖護さんはコートをポールハンガーに掛けると、その下に着ていた、血が大量についたパーカーをゴミ箱に投げ入れた。
火をつけたマッチを上から落とすと、パーカーに音もなく燃え移っていく。私はその光景をぼんやりとベッドに腰掛けながら眺めていた。
もういないんだ。
シビュラによって引き合わされた私の交際相手は、この槙島聖護という人間の手によって存在を消されてしまった。
彼の死体を見たわけではない。
訃報を誰かから聞いたわけでもない。
ただ燃えているパーカーだけが彼の死を語っていただけ。けど私は、その事実を疑う事はなかった。
「さあ、ユリ」
私の隣に腰掛けたこの妖しく美しい男性は、それを疑う余地なんて、与えなかったから。
「僕を受け入れて」
「……」
視線を持ち上げる。
音もなく近づいてきた彼の顔に誘われるように目を閉じると、唇が重ねられた。
ちゅ、ちゅ、と湿った音が室内を満たす。
次第に互いの唇が唾液で濡れてくると、聖護さんの舌が私の舌へ伸びてきた。
「…ん、っ」
深い口付けを交わしたまま、ベッドに身体を押し倒される。着ていたバスローブの紐を解かれて脱がされると、下着も身につけていなかった私の裸体が彼の視線に晒された。
「綺麗だ。…本当に」
つつ、と肩から腕にかけて指先でなぞっていたかと思うと、聖護さんは笑みを浮かべながら、私の首筋に噛み付いた。
そこは痣が咲いている場所。
どうやってついた痕なのかは、もう覚えていない。
「ぅあ…っ!」
「君は僕のものだ。…この身体中の痣さえもね」
「ッ痛…っ、なんで」
「なんでこんな事を=cかな?」
彼の舌先が鎖骨の辺りを這っていく。
そのまま胸の先端をちゅっと何度も吸い上げたかと思うと、左腕の痣の跡に彼の指先がグッと食い込んだ。
「ぁあっ!…やめて、痛…っ」
「僕が与える快感も、この痛覚さえも、君の身体に刻み込みたいんだ」
「ッ!!」
今度は脇腹の青痣を、抉り取るように指先で押して弄ぶ。痛くて苦しくて身を捩っても、すぐに彼の手によって元の体勢に戻されてしまう。
「いい表情だ。なんだろうな、君を見ていると、…とてもゾクゾクするよ」
「ぁ…っんん」
恥骨を容赦なくぐいぐいと押される。
身体中に口付けを降らしながら、聖護さんは私の内ももに手をかけた。
「濡れているね」
「…ッ」
「痛みさえも感じてくれた、という事かな」
「ぁっ、待っ…」
聖護さんの指先がなんの抵抗もなくするりと入り込んできたのを感じる。余裕があると見たのか、すぐにもう一本の指も侵入し、抽送を繰り返した。
自分の身体が立てているものとは思えないような水音がくちゅくちゅと大きく響き、羞恥で私は彼から顔を逸らせる。
「っ、はぁ、ぁあ…っ!!」
苦痛にも似た快感が全身に押し寄せ、私はびくりと身体をしならせた。息を荒くしながら脱力していると、聖護さんが私の足の間に割り込むのを感じた。
「今にも壊れそうで、壊れない」
「…は…っ」
ぐぐっ、と、大きな質量が私の中心へ押し進められていく。
達したばかりで敏感になっているせいか、聖護さんがじっと私を見下ろしている視線にすら反応してしまい、またそこが潤うのを感じる。
「そんな脆くて儚い存在だから、僕は君に欲情してしまうのかな」
「ッん…!!」
躊躇いなく、勢いよく一度腰を沈められる。
とっくに上気している私の頬を、聖護さんの指がするりと撫でた。
「その表情もいいね。これから僕に、もっとたくさんの顔を見せてくれるんだろう?」
「ゃっ…待って、だめ…っんん…!」
小さくかぶりを振る。
彼の動きを制止させようと肩を押し返してみたけれど、びくともしない。
肌がぶつかり合うたびにベッドのスプリングがギシギシと音を立てるほど、彼は力強い前後運動を繰り返す。
あまりにも強い快感に責められてうまく息ができなくなった私を見て、聖護さんは満足そうに微笑む。
彼自身も絶えず込み上げる快楽に耐えているのか、僅かに眉根が寄せられているのが見えた。
「…は…っ、…ん、気持ちがいいね、ユリ」
「ぁ、あっ、あぁんっ、も、ダメ…っ」
「先にイっていいよ」
「んッ、あぁ…!!」
「僕は見てるから」と優しく、甘やかすような口調でそう囁くと、聖護さんは容赦なく最奥を突き続けた。
そしてすぐに私が達したのを見届けると、私の中に彼の欲望がどろりと吐き出される。
それを感じながら、訪れた倦怠感に私はそっと目を閉じた。
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