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彼の視線が私の裸体を滑る。
身体に咲いている痣をひとつひとつ確認しているようだった。
私はほどなくしてバスローブの前を合わせて紐を結び直した。
「…これは、どうしたんだい?」
「一緒に住んでいる彼氏から受けたものです。一年ほど前から様子がおかしくなってしまって」
「ほう。その原因は?」
「私の行動が不安だったんだと思います。小まめに電話を寄越せだとか、遅くても夜22時までには帰宅しろだとか、最初はその程度だったんですが」
「……」
「だんだんエスカレートしていって、自分の思い通りに私が行動しないと腹を立てるようになって。…こんな形になってしまいました」
「なるほどね」
「今日も…友達とお昼ご飯を食べてから帰宅したんですが、それが気に入らなかったみたいで」
『友達だなんてウソだろう!男だな?!俺には分かるんだよ!』
『ホントに友達とだよ、…ッあ!』
頬を平手打ちされ、胸ぐらを掴まれる。
再び振り上げられたその手。
恐怖に駆られた私は彼の身体を思いきり突き飛ばし、そのまま家を出てきた。
「それで君はあそこにいたのか」
「はい。なりふり構わずだったから何も持たずに。…唯一の所持品は、ポケットに入っていたこのスマホくらいです」
それを取り出して自嘲する。
こんなことになるんだったら、せめてカバンくらい持ってくるべきだった。
これからどうしよう。
行くあてなんて、本当にどこにもない。
「僕が声をかけなかったら、君はどうしていたのかな」
「さあ。あのまま公園で凍死するのを待つか、どこか人の目がないところでひっそりと死んでいたかもしれません」
「…それだけの事をされて、君のサイコパスはどうなっているんだろうね。街頭スキャナやドローンが反応しないのだから、数値は間違いなく規定値以下なのだろうけど」
「もう、どうでもいいんです。色相だとか、犯罪係数だとか、サイコパスだとか。私には関係ありません」
どうせここを追い出されれば、あとはなるようにしかならない。行き倒れが関の山だろう。
目が力がなくなり、虚ろになっていくのを感じる。けれどすっと頬に添えられたその体温に、私は視線を持ち上げて彼の瞳を見据えた。
「自分の身体が醜いと思うかい?」
「はい、思います」
「そうかな。僕は全く逆の感想を抱いた」
「逆って…?」
しゅる、とバスローブの紐が解かれていく。
彼は私の肩からバスローブを落として再び私の裸体に視線を走らせると、妖しく微笑んだ。
「とても美しいよ。君はまるで、繊細な筆先で描かれた絵画みたいだ」
「え…」
彼の顔がゆっくりと近づいてくる。
それに合わせて目を閉じようとした時、「そういえば」と彼が小さく囁いた。
「まだ名乗っていなかったね。僕は槙島聖護」
「…ユリ、です」
「そう。…よろしく、ユリ」
軽く唇が合わさり、柔らかな感触。
そして首筋や鎖骨に舌先が這っていく。
情事のスタートの合図のように、ちゅ、と湿った音が室内に響き始めた。
ー外にはまだ、はらはらと雪が舞っている。
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