広い浴室内。
バスタブに張られたお湯から、もわもわと湯気が立ち込めている。

先にそこに身体を沈めた聖護さんは、「おいで」と言って私を見上げ、手を差し伸べた。

少しためらいながらその手に自身の手を重ねて、同じようにお湯に浸かる。



「そう隠す必要はないよ」

「でも…」

「言っただろう。…君は美しい。繊細な筆先で描かれた絵画のようだ、と」

「……」

「人は美しいものを愛でる。それは僕も例外ではない」



腕をぐっと引かれて、顔と顔の距離が縮まる。しっとりと湿気を孕んだ髪の毛が、聖護さんの肌に張り付いているのが視界に映った。



「こんなに痣だらけでも、ですか」

「もちろん。信じてないのか?」

「…ぁ、」



彼の指先が私の首筋から肩口にかけてゆっくり這う。そしてそこに音を立ててキスを落としていった。



「…ん、聖護さ、」

「醜いと思うものを、こんなふうに愛でたりはしないだろう?」



やがて彼の手が私の両頬を包んだ。
間近で視線が絡み合って、逃げ場所を失ったーと感じた次の瞬間には、もう私の唇は塞がれている。



「ん、んっ…」



柔らかさを確かめるように、そっと、優しく。離れるたびに何度も何度も鼓膜を震わせる水音に、身体の芯が熱くなっていく。

思考回路がおかしくなる前にと、私は聖護さんの両肩を軽く押し返した。



「…どうした?」

「は、恥ずかしくて…。聖護さんは平気なんですか」

「平気だよ。人と人が交わるのは、人間の本能であり自然の摂理だ。何も恥じる事はない」

「……」

「僕も人間だ。僕が君を求めることはごく当たり前と言える」

「……あそこにいたのが私じゃなくても、こうしていましたか」



言葉にしてから、はっとする。
まるで女性なら誰でもいいのか、と問いかけているようだ。


どうしてだろう。
相手が自分だから今こうして触れてくれているのだと言って欲しかったみたいだ。

いつのまにか、聖護さんに対して承認欲求が生じてしまったのか。そんな余計な感情が生まれてしまったというのか。



「…ユリは素直だね。そこが可愛らしくて良いと思う」

「…」

「もちろん、誰でも良かったわけじゃない。君だから声をかけた」



あの時の場面を思い出しているのか、彼の目が一度閉じられて、同時に長い睫毛が影を落とした。



「君だから抱きたいと思った」

「…!」



苦しいくらいに胸が疼く。

そっと目が開かれて、綺麗な双眸が私を捕らえる。
筋肉質な腕が背中と腰に回されて、逃がさないとでもいうように彼は笑った。



「…そろそろいいかな?」

「ここで…ですか」

「場所は関係ないさ」



ー僕たちが味わう快楽に、変わりはない。


そう耳元で囁かれる。
浴室の温度ですっかり上がった彼の体温と、そして自身の体温。どちらのものとも区別がつかず、触れ合った部分からそれらが混じり合っていく。


脳まで蕩けてしまいそうになるほどの熱にくらくらしながらも、私は聖護さんに身を委ねた。



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