メルティーキッス
「…ただいまー」
社会人二年目。
毎日上司と先輩に媚びながら業務をこなし、朝晩は満員の通勤電車に揺られる日々。
一人暮らしなので誰からも返事はないとわかっているのに「ただいま」と言ってしまうのはなぜだろう。
スーツの上着を脱ぎ捨てると、私はベッドの上にダイブした。
「…ちょっと一休みしようかな」
枕に頭を預けて、あくびをひとつ。
このまま布団と融合したい、なんて思っていると家のチャイムが鳴った。身体を引きずって玄関まで向かって鍵を開ける。
扉を開くとそこにはマイキー君の姿があった。
「よっ、ユリさん」
「もう…急に来るのやめてっていつも言ってるのに」
「いーじゃん。会いたくなったんだもん」
おっジャマー♪と言いながら、マイキー君は靴を脱ぎ捨ててリビングへ向かう。
フローリングの床に横並びになって座ると、マイキー君がコンビニ袋を差し出した。
「ホラ、ユリさんの好きなピノ買ってきた」
「わーっ!ありがとうマイキー君!!」
ピノは私の大好物。
その他にもミルクティーやらココアやら、私の好きなものが入っている。
「マイキー君も何か飲む?」
「んー、じゃあコーラある?」
「おっけー」
マグカップにコーラを注いでローテーブルに置くと、私はさっそくピノを開封した。
「わーい!いただきます」
「どーぞ」
「んーおいしー!これこれっ」
一粒口に含んでもぐもぐしていると、マイキー君がテーブルにひじをつき、ニコニコしながらこちらを見守っている。
「なぁ、口にチョコついてる」
「えっ、どこ?」
「ここ」
マイキー君は私の口元を指でなぞると、そのまま指先についたチョコをぺろりと舐めた。「とれたよ」なんて笑ってる。
なんだか保護者みたいだ。私よりも10個近く年下なのに。
「オレにもくれる?ピノ」
「うん!はい、口開けて」
「その前にユリさん、あーんして」
「?」
言われた通りに口を開けると、ピノが口の中に運ばれる。マイキー君が食べたかったんじゃなかったのだろうか。
チョコが溶けていく感触を味わっていると、マイキーが顔を近づけてきた。
「…っ」
生き物みたいな舌が入り込んできた。
溶けたチョコとアイスにまみれた私の舌を絡め取り、ちゅっと吸い上げられる。
「ん、…っ」
「甘いね」
「ま、マイキー君っ。もう…」
「何?照れてんの?」
「ーっ…」
「…なぁユリさん、好きだよ」
ゆるく抱きしめられる。
私の頬にマイキー君のふわふわの毛先が当たってこそばゆい。
返事の代わりにマイキー君の背中に手を回すと、微かに微笑んだ気配がした。
「まだピノあるよね」
「え?うん」
「じゃ、もっかい」
マイキー君はピノを私の前に差し出すと、年下とは思えない艶やかな笑みを浮かべた。
「さっきのキス、しよ」
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