こどものわがまま 前編
大人になれば、自分の感情なんて簡単にコントロールできると思ってた。
何かあっても平然としていられて、自分の欲求なんてそれとなく操れて、感情が高ぶったとしても落ち着いていられると。
それができない私は、まだまだ子供なんだろう。
「貴方のことが好きです」
静かなオフィス内に響いた、震える私の声。
告げられた相手ー、上司のリヴァイさんは、驚いた様子でこちらに視線を寄越した。
ことのきっかけは今日のランチタイム。
社内にある共有スペースでお弁当を食べていると、女性社員の話し声が耳に入ってきた。
「ねぇねぇ、私昨日、見ちゃったんだ」
「え、何を?」
「いい?ここだけの話だよ」
「うん」
「リヴァイさんが、ウチの課の女の子と一緒にホテル入ってったの」
それを聞いた瞬間、私の手からぽろりとお箸がこぼれ落ちた。
カシャン、という軽い音と共に、女の子たちの視線がこちらに寄せられたけれど、私は聞こえていなかったふりをして何気なくお箸を拾った。
それからは仕事なんて手につくわけがなかった。
どんな話でも右から左。
少し遠くのデスクに座っているリヴァイさんの顔を視界に映すたび、胸が締め付けられる思いがした。
もう、なんでもいい。
後先だってどうでもいい。
この気持ちを抑えておくのはもう限界だと、はっきりとそう思った。
そしていつも遅くまで残るリヴァイさんに合わせて私はぐずぐずと残業をし、オフィスで2人きりになった時、自分の思いを告げたのだ。
「なんだ、いきなり」
「今言った通りです。貴方のことが好きです、リヴァイさん」
「…」
彼は何か探るような目をこちらに向けていたけれど、私が冗談を言っているわけでも、嘘を言っているわけでもなく、真剣そのものだとすぐに分かったようだった。
「それで、お前はどうしたい」
「え?」
「俺に告白して、それから何がしたいんだ」
「何が、って…」
そんなの決まってる。私と付き合って、私だけのリヴァイさんでいて欲しい。けどそれを告げることができない。
そして気づく。
私はただ、リヴァイさんに自分の気持ちを押し付けたかっただけなのかもしれない。
社員の女の子が話していた噂を聞いて嫉妬に狂い、自分の思いを彼に知らしめたかっただけなのかもしれない。
「…」
「続きがないなら話は終いだ」
そう言うとリヴァイさんは私に背を向け、机の上を整理し始めた。カバンに荷物を詰め、帰る支度をしている。
うそだ。
こんなもんなのか、私が今まで秘めてきた想いは。
待ってください、という言葉が喉まで出かかったのに、てきぱきと支度を進める姿がそれを押しとどめた。
代わりに口から出た言葉。
「…ください」
「あ?」
「私を抱いてください。リヴァイさん」
自分でも驚くほどすんなりと、そう述べていた。
リヴァイさんはしばらくじっと私を見ていたが、やがて口を開いた。
「いいだろう」
「えっ?」
「近くにホテルがある。そこで構わねぇな」
腕時計を見て「23時か」と呟く。
「行くぞ、ユリ」
「は、はい…」
「なんだ。テメェが抱いて欲しいって言ったんだろうが。突っ立ってねぇでさっさと行くぞ」
踵を返して会社の外へ向かうリヴァイさん。
私は現状に理解が追いつかないまま、彼の後を追った。
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