純白の花2
「今日からここがお前の部屋だ」
調査兵団本部にある空き部屋。
その一室をユリに与えることにした。
俺の目が届きやすいよう、ほぼ真向かいにある。
そこは椅子、簡素なベッド、それに窓が一つあるだけの無機質な空間だ。しばらく使われていないせいか少し埃っぽい。
…掃除が必要だな。
「…」
「なんだ、どうした」
ユリは部屋をきょろきょろと見回したあと、おそるおそる俺の目を見た。
ほぼ俺と身長は変わらないか、俺より多少低い程度だろう。
「あの、お部屋…いただけるんですか」
「当たり前だろうが。厩で寝ろと言うとでも思ったのか?」
「…はい」
小さくそう答えた。
まあ、闇市で買われた立場からすればそんな考えにも至るのかもしれない。
「金で買ったとはいえお前は人間で女だ。俺だって悪魔じゃねぇ。…しかし」
「?」
「少し手入れが必要だな。この部屋も、お前も」
徹底的に隅々まで部屋を掃除する俺を、ユリは驚いたような目で見ていた。
その反応にはもう慣れている。
人類最強と謳われるこの俺が、まさか極度の潔癖症だとは誰も思わないのだろう。
しかし埃を被った床や家具など、間違っても見過ごすわけにはいかない。
掃除を終えると、俺はユリ椅子に座らせ鋏を手に取った。好き放題伸びているその髪を切るためだ。
ユリの身体が強張っているのが、後ろから見てもわかる。いきなり首を掻き切られてもおかしくないと、そう思っているのだろう。
「…安心しろ。傷付けたりしねぇ」
彼女の髪を一房手に取り、先端を切り落としていく。
見た目である程度予想はついていたが、やはりユリの髪はとても柔らかく、触り心地がいい。
チョキ、チョキ、と小気味良いい音が静かな室内に響き、それと比例してユリの髪が床に滑り落ちていく。
前から切ろうとしてユリと対面する。
彼女をじっと見下ろすと怯えたように目を逸らすしたが、構わずに鋏を進めていく。
「これで大分整ったな」
「………」
手鏡を手渡し、確認させる。
眉の上あたりで前髪を切り揃え、後ろ髪も整えてやった。
「…すごい。美容師さん、みたいですね」
「大したことはしてねぇ。が、前よりはずっといいだろ」
彼女は鏡を持ちしばらく見つめていた。
こんなふうに清潔感のある髪型をしたのはいつぶりだろう、という様子だった。
「……リヴァイさん」
「なんだ」
「…ありがとう、ございます」
そう言って、彼女はふわりと口元に微笑みを浮かべた。
黒目がちな目が少しだけ細められた、初めて見る彼女のその表情。
ーまるで花のようだと、そう思った。
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