純白の花8




今日は非番だ。
普段なら部屋の掃除と読書、鍛錬とそれに茶を飲むことに時間を費やしていたが、今はユリがいる。

せっかくだ。たまにはゆっくり話でもしよう。



「ユリ。俺だ、入るぞ」



軽くノックしてから扉を開けると、そこには椅子に腰掛けて本を開いているユリの姿があった。



「なんだ。読書か」

「はい。今日、廊下で偶然エルヴィンさんに会った時に貸してくださいました」

「エルヴィン?」



なんで今そいつの名前が出てくる。



「知りたいことがあって。どこを探せばいいのか分からなくて困っていたら、この本を貸してくれて…」

「何故俺に言わない?」

「え?」

「俺に言えばいいだろう。本くらいいつでも貸してやる」

「えっと…その、なんでもリヴァイさんのお世話になるのは、良くないかなと思って…」

「あぁ?」



面白くねぇ。
自分でも明らかに声のトーンが下がったのが分かる。

ユリもとっくにそれに気づいているのだろう。少し怯えた様子を見せているが、俺は止まらなかった。



「お前を買ったのもここに連れてきたのも、他の誰でもねぇこの俺だ。違うか?」

「…」

「何かあればまず俺に言え。他の野郎なんざ頼るんじゃねぇよ。お前の所有権は俺にあるんだからな」

「…ッ」



ユリに歩み寄り、手にしていた本を取り上げる。
初めて見せた俺の横暴ない態度に彼女は怯えている。それも面白くねぇ。

一体なんなんだ、この不愉快な感情はー。





「…ごめんなさい、リヴァイさん。私…」

「!」



か細く震えた声が室内に響く。
彼女の両目からは静かに涙が流れていて、それを見て俺はようやく我に帰った。






…嫉妬だ。
俺はエルヴィンに嫉妬していた。


つい数日前、ユリがエルヴィンに見惚れていたときに感じた微かな苛立ちの原因も、こうして今、俺が感情を昂らせている原因も。

「嫉妬」していると考えれば、全て片付く。



「…」



そんな感情を他人に覚えたことなどもちろんない。

少しの間、戸惑いを隠せずに立ち尽くしたままでいたが、俺はやがて「すまない」と呟くように言ってから本を彼女に返した。



「どうかしていた。今のは忘れろ」

「リヴァイさん…」



ふとユリが抱えた本の表紙が目に入る。
そこには「初心者向けの料理」とタイトルが書かれている。

もしかしてまた、礼にと何か作ろうとしていたのだろうか。先日の手料理の味を思い出して、また胸が締められるような思いがした。



「リヴァイさん!待って…」



こういう時、一体どう振る舞うのが正解なんだ。
…クソ、わからねぇ。



俺はユリの制止を振り切り、やるせない思いを抱えながらその場を後にした。



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