かつての恋心(後編)





2人で並んで同窓会の会場を後にする。
そこはアーケード街の一角にあったため、人々の喧騒が煩わしかったけれど、駅に近づくにつれて辺りは少しずつ静かになっていった。


ーどうして、私に声をかけてくれたんだろう。
隣に腰掛ける和谷君を視界の端で捉えながら、そんなことを考える。

私と和谷君は中学時代、特別仲が良かったわけではない。3年生の時にクラスが同じになって、私が一方的に和谷君に恋心を抱いていた。ただそれだけだった。

だから居酒屋から「抜けないか」と声をかけられた時、嬉しさよりも驚きの方が勝った。たまたま私が近くの席にいたから声をかけてくれたのだろうか。


「ユリはどっち方面?」


改札口の前で和谷君が私を振り返る。
「あっち」と指差しながら告げると、「オレと一緒だな」と返答がきた。

ホームへ上がるエスカレーターに乗る。
終電間際のこの時刻。ほとんど人はおらず、この場所にいるのは私たちだけなんじゃないかと思うほどだった。

当たり前に空いていたホームのベンチに並んで腰掛けると、和谷君がこちらを見ながら言った。


「どうだった?同窓会」
「楽しかったよ。久しぶりに友達に会えたし。みんなの近況が聞けて嬉しかった」


…それに、こうして和谷君と話す事ができたし。
心の中でこっそり、そう付け加える。


「和谷君は?…あ、そうだ、和谷君がカッコよくなっててびっくりしたってウワサしてたよ」
「え、オレ?!」
「…そんな驚く?」
「そりゃ驚くさ。へェ、なんかうれしーかも」
「ふーん…」


嬉しいって感じるのか、と思う。
というのも中学時代、和谷君といえば囲碁という印象しかなかった。色恋に関するウワサなんて何もなく、それに安心もしたけれど、恋愛に興味がないのかとどこか複雑な気持ちも抱いた記憶がある。

何気なく和谷君の左手の薬指を盗み見る。
もう結婚していてもおかしくない年齢だけれど、そこに指輪は嵌められていなくて、どこかホッとした自分がいた。


「…カレシ、できた?」
「え?」


思わず聞き返す。
まさかそんな質問をされると思っていなかった。
「いや、だから」と和谷君は手で口元を覆いながら、私に同じ質問を繰り返した。


「コイビトとか、いんのかなって」
「……いない、けど」
「そっか」
「…」
「なあ、連絡先聞いていい?」
「えっ」
「…なんだよ」


今の流れ。
なんだな和谷君が私に興味あるみたいじゃないか。
…いや、思い上がりかもしれない。
久しぶりに同級生に会って、連絡先を聞くのなんて、当たり前のことなのかも。

少し戸惑いながらも「いいよ」と答えて携帯を取り出し、自分の電話番号を表示する。和谷君はそれを見ながら自身の携帯に登録すると、「サンキュ」と言って携帯をズボンのポケットにしまった。


「…あのさ、オレ」
「うん?」
「中学の時、ユリのことが好きだったんだ」
「え…」


時が止まったように思えた。
今し方告げられた和谷君の言葉を頭の中で反芻しようとした瞬間、「間もなく電車が参ります」とアナウンスが辺りに流れ、私は我に返る。


「えっ…ほ、ホントに?」
「ああ」


和谷君は少し顔を赤く染めながら頷く。
これは夢なんじゃないだろうか。
今は日付が変わる寸前だから、12時になったらはっと目が覚めるとか、そんなオチなんじゃないだろうか。

間も無くして電車がホームに停車し、ドアが静かに音を立てて開いた。人がちらほらと下車していく。


「…わ、私も」
「え?」
「私も和谷君のことが好きだった…!」


和谷君の目が、驚きを映しながら瞬く。
私たちはそうして少しの間、お互いの視線を交わらせていた。


『ー間も無く発車致します。ご乗車になりましてお待ちください』
「あ…」
「とりあえず乗ろう」
「!う、うん」


さりげなく、和谷君が私の手をひいた。
その手の温もりにドキドキと心臓が高鳴るのを感じる。

ガラガラの車内に、私達は隣り合って座り込んだ。
手はまだ和谷君に包まれたまま。


これからお互いの最寄り駅に到着するまで、私は今まで抱えていたあの頃の気持ちを沢山、和谷君に告げるのだろう。好きだった事、想いを告げようとした事、諦めようとした事、そして、今も尚、想いは続いている事。

これが夢じゃないのであれば、和谷君も同じ気持ちでいて欲しいと、私は願った。




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