それ、なんて本?




12時50分頃。今は学校の昼休み中。
お昼のお弁当をさっさと食べ終えた私は、カバンから一冊の本を取り出して机に置いた。


この本は世界的なベストセラーになっていて、家族が購入してきたもの。クラスでもみんな読んでいるらしく、それなら私も、と思い読み始めたところ止まらなくなってしまった。

普通の人間だと思っていた人間が、ある日突然魔法学校に入学することを知らされ、魔法界へと赴く。そこで起こる不思議な事件を仲間たちと乗り越えていく、といったストーリーだ。


昨日は…どこまで読んだっけ。
そうだ、箒を使った競技で、初めて試合をするところ。

全部文章だから頭で想像するしかないのに、読みやすい文章と鮮やかな描写で脳内いっぱいにイメージが浮かぶ。すごい、すごい。一体どっちが勝つのだろう。


「…なあ」
「(惜しい!相手チームにゴールを決められた…!)」
「おーい」
「(この相手チーム、反則ばかりする。憎たらしい〜っ)」
「おーいってば!」
「っ!」


声をかけられている事に気がついて、反射的に顔を上げる。するとそこには、前の席に座りながら私を見ている和谷義高君の姿があった。


「ご、ごめん!なに?」
「5限、道徳の授業で視聴覚室に変更だってよ。みんなに伝えてって学級員長が」
「あ、ああ。変更ね。わかった」


私は了解し、身体を捻って後ろの席の子にその旨を伝える。終わってから身体を前に戻すと、まだ和谷君は私を振り返っていた。


「そんなにオモシロイのか?」
「あ、これ?うん、おもしろいよ」
「それ、なんて本?」


私は本のタイトルを告げる。
彼は「あー、それか」と声を上げた。


「最近話題になってるよな。オレも本屋で見かけたことあるぜ、すげえ山積みになってんの」
「そうだよね。世界的に人気みたいだし」
「フーン…。魔法魔術学校で起きる不思議な出来事ね」


そう言いながら、和谷君は本の帯に書いてあった文字をしげしげと見つめている。

そういえば、こんなふうに向き合って近くでちゃんと話したこと無かったかもしれない。同じクラスメイトなのに。


「(…かっこいいな)」


和谷君は、実は女の子に結構人気がある。
単純にカッコいいし、明るくて人柄が良い。
ただいつも遊んだりせずにすぐに下校するから、女の子達はあまり行動に移せずにいるみたいだ。


「ん?」


そんな私の無遠慮な視線に気づいたのか、和谷君が目線を上げた。至近距離でばっちり目が合い、どきっとする。


「どした?」
「…!う、ううん、なんでもない」
「そっか。読書ジャマして悪かった」


最後に軽く手を上げて、再び前を向いた和谷君。
そこにクラスの男の子が「和谷ー」と声をかけ、それに笑顔で答えている。

そんな彼の横顔を後ろからそっと見ていたけれど、私は再び本を開いてそこに目を落とした。


けれど、さっきまで読書に集中できていたはずなのに、頭の中は今し方和谷君と交わした会話でいっぱいで。

もう一回話しかけてくれないかな、なんて思いながら、一生懸命に本の内容を頭に入れようとした。




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