安らぎを求めた

 



18才。高校三年生。
それだけ聞くと、親の庇護の元、お気楽に学生生活を送っている子供だと思う人が多いんじゃないだろうか。


けれど実際はそんな事はなくて、様々なことに気を遣いながら生きてる。

成績だってある程度優秀でないと親にくどくど言われるから勉強は欠かさないようにしなければならないし、クラスの友達付き合いだって、女子だからかもしれないけれど、発言一つで崩れ落ちてしまうんじゃないかと思うほど儚く脆い。

極め付けはアルバイト先。
先輩の顔色を伺いながら仕事をこなし、学校帰りで疲れているのにも関わらず労働に勤しまなければならない。…いや、お金が欲しいから仕方ないことなんだけど。

とにかく、呑気にのうのうと生きているわけではない。私たちだって毎日必死に生きているし、できる事ならば違う世界に行ってしまいたい、と考える事だってしばしばなのだ。


「どうした?なんか疲れてんな」
「うーん…色々とね、大変なんだよ」
「なんだよ」


義高が一人暮らしをしているアパート。
私と義高は小さいローテーブルを挟んで座っている。
彼とは中学時代に出会って、そこから交際が始まった。

義高は血の滲むような努力を重ね、中学に在学中、囲碁のプロ棋士になった。そして同い年にして一人暮らしを初め、現在も尚、毎日棋士として囲碁の勉強の日々を送っている。そんな彼を前にしてこんな愚痴を零すのははばかられるけれど、恋人なのだから少しくらいはいいだろう。


「ガッコーとかバイトとかね、少し疲れちゃっただけ」
「大変そうだよな。ベンキョーしなきゃいけねェし、入試だってもうすぐだろ?」
「そうなのー!!」


私は行きたい大学があって、現在その入試に向けて勉強中だ。その勉強もかなり厳しくて、決して頭がいい方ではない私には苦痛でしかなかった。


「まあ飲めよ」
「ありがとう…」


まるでお酒でも注ぐかのように、義高がコップにファンタグレープを注いでくれた。私はそれを飲むと、はぁとため息をつく。


「気晴らしにどこか行くか?」
「んー…ううん、義高とゆっくりしたい」
「そっか」


今着ているこの制服を、何度煩わしいと思っただろう。ブラウスを着て、スカートとハイソックスを履いて、時期によってはセーターとブレザー。冬は寒いし夏は暑い。

当たり前だけれど必ずこれらを身につけて、毎日決められた時間に登校しなければならない。大袈裟でなく、囚人服のようだと思ったことすらある。 
 
私はずるずると身体を引きずるようにして移動させると、義高の正面まできて、彼の腰の少し上あたりに両腕を回した。そしてそのまま崩れ落ちるように彼に寄りかかる。

頭上で義高がフッと優しく笑う気配。
そのすぐあとに、私の大好きな体温が頭を優しく撫でてくれたのを感じた。


「…義高はさ」
「ん?」
「高校生になってればよかったって思ったこと、ある?」
「ねェな」
「即答…」


そうだよね、義高ベンキョー嫌いだもんね。
と1人納得した。


「でも、制服は着てみたかったなって少し思うぜ」
「…どうして?」
「だってさ、そしたらユリと制服でデートできるだろ?」
「!…」
「ちょっと憧れるよなっ」


カラカラと笑ってる。
抱きしめている腕や、義高の胸に当てている私の頬に、その振動が優しく伝わってきて。

…ああ、好きだな、と思う。

すり、と、猫がするみたいに、義高の着ているシャツに鼻先をすり寄せると、嗅ぎ慣れた柔軟剤の匂いがした。


「お疲れ、ユリ。毎日偉いな」
「…義高のが、ずうっと頑張ってるよ」
「カンケーねェって。オレは知ってるぜ、ユリが毎日ガンバってること」


誰よりも大好きな義高が、誰よりも近い距離で私を見守ってくれている。それがこの上なく嬉しく思えて、私は義高の腰に回した腕に、ぎゅっと力を込めた。



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