恋色フレグランス



例えば私があの人を好きになったとして、あの人が私を好きになってくれる確率はどのくらいなのだろう。
そんなことを考える。


「両思いってさぁ、実はものすごいことだよね」


ブルー寮の夕食の席で、私は思わず明日香にそう溢した。明日香はフォークを口に運んでいた手を止めて、目をぱちくりさせて私を見た。


「どうしたのユリ、急にそんなこと言い出して」
「うーん、ふと思っただけなんだけど…。例えばだけどさ、私が吹雪さんを好きだとするじゃない。それで吹雪さんも私を好きになってくれる確立って、限りなくゼロに近いと思うんだよね」


そう考えたら、両思いの人たちってすごいなあ、って。
そんなことを告げると、明日香は少し考えたあとに私にこう言った。


「どうして兄さんを例えに出すの?そこで例えにすべきはヨハンでしょう?」
「え?!」
「気付かれてないとでも思ったの?バレバレよ」
「…」


誰にもこの気持ちを話したことはなかった。
確かに気づけば目で追ってしまっていたし、彼が誰かと話している時に見せる笑顔なんて見惚れてしまっていたほどだ。


「…好きって自覚するのが、怖かったんだと思う」


ぽつりと呟く。
私がヨハンという人物に想いを寄せて、気持ちを募らせれば募らせるほど苦しくなるのは想像にたやすい事だから。


だから私は思う。
彼もまた、私のことを好きになってくれる確率というのはどのくらいなのだろう、と。

それは奇跡に近い確率なのかもしれないし、もしくは初めから確率などないのかもしれない。そう思うと無意識のうちにブレーキをかけてしまうのは当然だと思えた。


「…そうね、でも」
「…」
「誰かを好きになるのは、悪いことじゃないと思うわ」


そう言った明日香の笑顔には憂いが含まれていて。もしかしたら明日香もまた、誰かを想っているのかもしれないと感じた。


別のテーブルの席で、同じ寮の生徒と談笑しながら食事をしているヨハン・アンデルセンの横顔に視線を送る。目があったらどうしよう、でもこちらを向いてほしい、そんな矛盾した気持ちを抱きながら。


「…そっか。好きになっちゃったんだ」


もはや歯止めが効かなくなった、この気持ちに気付いてしまった。
これから私はあの人について一喜一憂する日々を送るんだろう。そう思ったら小さなため息が出る。


…さて、君が私を好きになってくれる確率は、一体どのくらい?


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