セピアの夜


(現パロ社会人夢)




『…悪い。どうしても外せない接待があって』


携帯電話越しに、申し訳なさそうな声が響く。私はそれを耳にして、がっかりした声色を出さないように注意しながら言葉を返した。


「お仕事なら仕方ないよ。私なら大丈夫だから、気にしないで」
『…ホントゴメンな、ユリ。絶対埋め合わせするから』
「いいって。…それじゃ、またね。お仕事頑張って」
『…ああ。またな』


プツ、と無機質な音がして、通話が終了する。途端に私は携帯電話を握りしめたまま、ずるずるとその場に崩れ落ちた。


「はあ〜…。会えるの、楽しみにしてたのになぁ…」


お互い忙しい社会人の身。
今日は金曜の夜で、世間で言う「花金」というやつだ。
いつもなら、会社終わりに夜ご飯を一緒に食べてから、どちらかの家にお泊まりをするというお決まりの流れがあった。


けれど先週も先々週も、お互い飲み会やら送別会やらで会うことができなかった。土日に至っても、向こうが実家に帰ったり私が友達と小旅行にいったりですれ違っていたのだ。

だから、今日会えるのを本当に楽しみにしていたのに。


「…さみし」


心の中にあったはずの期待が、スッとさざなみのようにひいていくのを感じる。なんならこのままだと涙すら出そうな勢いだ。

とっととお風呂に入って、寂しさで胸がいっぱいになってしまう前に寝てしまおう。そう思った私はお風呂場へ直行した。










ーあ、これ、夢だ。
たまに自分が夢の中にいるって分かること、あるんだよね。明晰夢って言うんだっけ…。

私はベッドの中で眠っている。
不意にドアが開いて誰かが近づいてきて、そっと頭を撫でてくれる。

目を開けるとそこにヨハンがいて、私は幸せでにっこりと微笑むんだー


「…ヨハン、すき…」
「!」
「…んん?あれ…?」


撫でてもらって気持ち良くなっていたというのにその手が突然止まるものだから、私は不思議に思って目を開けた。

するとそこにはスーツを着たヨハンがいて、顔を赤くして私を見下ろしている。


「!ヨハン?!」
「わり…起こしちまったか」
「ど、どうして…接待は…?」
「大丈夫。ちゃんと終わってから来たよ」


壁にかかっている時計を見ると、もう夜中の一時近い。どうやって来たのかと尋ねると、終電もなかったためタクシーを拾ってきたとの返答が返ってきた。


「…あんな寂しそうな声聞いたら、どうしても会いに行かなきゃって思ってさ」
「え…」
「無理して元気な声作ってたろ。あんなのすぐ分かるって」
「…ごめん…」
「謝るなよ。オレもユリに会いたかったんだからな」


ヨハンは嬉しそうに頬を染めると、私の身体をぎゅっと抱きしめた。


「お互いの家の合鍵…作ったばっかだけどさ」
「…うん」
「やっぱオレ、ユリと2人で暮らしたいな。毎日、ユリの一番近くにいたいと思うよ」
「ヨハン…」


私も、と小さく呟いて、ぎゅっと彼の身体を抱きしめ返す。彼のスーツがまとった夜風の香りが鼻腔をくすぐった。


ついさっきまで寂しさに呑まれそうになっていたのが嘘のように、私の心が満たされていく。

少し冷たい彼の両頬に手を添えて、愛おしさに微笑みを浮かべると、ヨハンは同じように愛おしげな眼差しを向けて、私にとろけるようなキスをくれた。


セピアの夜に色が満ちる。
離れ難くて、しばらくはお互いの体温を感じ合っていた。

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