触れたい、気持ち



デュエルアカデミア。この学校に、留学のため滞在に来てからもう一ヶ月近くなる。

最初こそアークティック校とは勝手や雰囲気が違ったところもあって戸惑ったけれど、今ではすっかり慣れて打ち解けて来たと思う。

十代や万丈目、翔や剣山、明日香といった友達もできた。そして変化はもうひとつ。


思えば入学初日から、その兆しはあったのかもしれない。宝玉獣に選ばれた者として、周囲の生徒たちは物珍しいものを見る目でオレを見たし、ここに来る前から、そんな視線にはオレも慣れていた。

けど少し離れたところから、オレを見ているようで見ていない人物がいた。それがユリだった。


「なあ、もしかして君、精霊が見えるのか?」


最初に声をかけたのはオレの方だった。
彼女はオレの言葉に、驚いたように目を大きくし、そして首を横に振った。


「ううん、精霊って、デュエルモンスターズの精霊の事だよね?話には聞いたことがあるけど…残念ながら、見えないや」
「そうか。君には見えているような気がしたんだけどな」
「見えないけど…でも、感じるよ。きっと今、貴方のそばに…いるのかなって」


違う?ヨハン君。
首を傾げながらそう問いかける彼女の表情が印象的で、オレはそれが忘れられない。
どこか儚げで、不思議な雰囲気をまとったユリ。オレはその日から、彼女を頭のどこかで意識するようになった。




「おーい、ユリ!」


いた。
彼女は今日も外のベンチに腰掛けて本を開いてていた。オレの姿を認めると、ぱたんと本を閉じて顔を上げる。


「ヨハン君。ここ最近、毎日会うね」
「ああ、まあな」


ユリに会いたくてなるべく外を歩くようにしているから、とは言わなかった。そんな事を言ってしまったら、今みたいに気軽に会うことができなくなってしまうかもしれない。

彼女が少し身体をずらしてくれたので、オレは「ありがとう」と言って隣に座る。するとユリはじっとオレの顔を見つめてきた。


「…どした?」
「ううん、ヨハン君は精霊が見えるんだもんね。羨ましいなって」
「ああ。今もオレの肩の上にいるよ。ルビーっていうんだけどさ」
「ルビー…?」


じっと、ユリはオレの肩の辺りを見つめる。そしてそこに手を伸ばして、一度動きを止めた。


「…うん。感じる。ヨハン君の事、すごく信頼してるみたいだね」
「そんな事まで分かるのか?」
「本当になんとなくだけど…」
「すごいな。ユリみたいな人には初めて会ったよ」


そう言うと、照れたように頬を赤くする。
その姿も可愛らしくて、こうして見ているだけで心臓の鼓動が速くなる。


いつからだろう、ユリをこんなに意識するようになったのは。最初はただ他愛もない話をしていただけだったのに、今では毎日顔が見たいし、毎日話がしたいと思うようになった。

そして、つい今しがたまでオレの肩に向かって伸ばされていたその手に、触れたいと思うようになったのは。
…いつから、だったのだろう。


例えば今、ユリの手に触れたらどんな反応をするんだろう。君のことが好きだと囁いたら?抱きしめてキスをしたら?
そうしたら少しは、オレの事を意識してくれるようになるのかな。


「…ヨハン君?」
「あ、悪い。少し考えごとしてた」


君について。
そう言えたらどんなに良いだろう。
…オレって恋愛に関してかなり臆病な人間だったんだな。それとも、相手がユリだからなのか。

ユリは気を悪くする様子もなく、にこっと微笑んだ。その笑顔も可愛いな、なんて思う。


「考え事してるヨハン君もかっこいいね」
「…え」
「女の子がみんなが夢中になるの、分かるよ」


モテモテだもんねー、なんて言っている。
誰かに想ってもらえるのは確かにとても嬉しい事だと思う。
けど誰かに夢中になって貰えたとしても、それがユリじゃなきゃ、意味がないんだよ。
…そう言えたら、どんなにいいだろう。


「じゃ、私そろそろ寮に戻って課題やるね。またね、ヨハン君」
「ああ。またな」


呼び止めたい気持ちを抑えて、手を振って彼女の背中を見送った。

ーその手にも、その気持ちにも。
触れたいのに、触れられないまま。

甘い痛みが、オレの胸の中で疼いた。



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