13 零れた気持ち

そして部屋で少し休んだあと、夕ご飯の時間になったためブルー寮の食堂へと降りていった。

相変わらず豪勢な食事がテーブルに所狭しと並べられていたけれど、今はあまり食べる気になれずにいた。


「ユリ、それしか食べないの?」
「…うん、あまりお腹減ってなくて」


となりの席に座った明日香が私のお皿を見て言う。

今日はバイキング形式だったから、サラダを小皿にとってきてそれを食べようと思ったのだけれど、やはり少なすぎたらしい。


「大丈夫だよ、ただお昼ご飯食べ過ぎちゃっただけだから。心配しないで」
「そう?ならいいけど…」


嘘をついてしまったことを申し訳なく思いながらも、私が微笑んで見せると明日香は一応信じてくれたようだった。

食堂を見回すとヨハン君の姿はなくて、おそらくレッド寮で十代と一緒に食べているのだろうと思った。



少なめの夕ご飯を食べ終えたあと、寮の外に向かった。少し夜空の中を歩いて気持ちを晴らしたい気分だった。


「(…そもそもなんでこんなにもやもやしてるんだろう)」


都会と違って、デュエルアカデミアから見る夜空は本当に星が綺麗に見える。加えて心地いい潮風は私の頬を優しく撫でてくれた。


そのとき、ガサッと茂みから音がしてそちらを見ると、丸っこいものが現れた。


「にゃー」
「ファラオ!なんでこんなところに?」


驚いていると、ファラオは私を見上げて足首に身体を擦り寄せてきてくれた。
しゃがみこんでその頭を撫でてあげると、ゴロゴロと喉を鳴らして応えてくれる。


「…ねえファラオ、聞いてくれる?」
「にゃー?」
「今日ね、ヨハン君と女の子が話してるの聞いちゃったの。女の子がね、ヨハン君のファンだからゆっくり話がしたいって言ってて…あ、もちろん盗み聞きなんかじゃないよ。偶然聞いちゃったんだ」


こんなこと、ファラオに言っても仕方がないってことくらい分かっている。
けれど言葉にして誰かに聞いてもらえないと、なんだか気持ちがいっぱいいっぱいになってしまいそうだったのだ。


「それでね、ヨハン君はいいよって答えたの。それから二人は寮の外に出て行って…。何話したのかは知らないんだけどね、なんか…その2人を見てたら、胸がぎゅってしたの」


そう、それは今までに感じたことのない感覚だった。ファラオは喉を鳴らすのをやめて、黙って私を見上げている。


「私、仲良くしてもらえてるから勘違いしちゃったのかな。けどヨハン君がほかの女の子と2人で歩いてるの、なんだか見たくなかったの。ねえファラオ、どうしてだと思う…?」


問いかけにはもちろん答えはないけれど、その代わりにファラオは私の手に頭を擦り寄せてくれた。


「ふふ、心配してくれてるの?…ありがと」


ふっと笑ってファラオの頭を撫でたときだった。


「…ユリ」
「っ!よ、ヨハン君?!」


不意に声をかけられて顔を上げると、そこにはヨハン君が立っていた。驚きのあまり何も言えないでいると、ヨハン君が先に話し出した。


「なんだかユリが元気ないみたいだったって十代から聞いて、心配で今から部屋に行こうと思ってたんだけど…」
「…あ、え、えっと、今の…聞いてた…?」
「…ああ。聞いてた」
「っ、うわあぁ!」


聞かれていた。
途端に全身がかあっと熱くなって。ヨハン君から逃げ出すような形で、私はその場にいても立ってもいられずに走り出した。


「あ、ユリ!」
「(聞かれちゃった…!よりにもよってヨハン君に!は、恥ずかしい…!!)」





「…期待…しちまってもいいのかな」

残された彼が顔を赤く染めながらそう呟いたことを、ユリは知らない。

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