14 優しさ
翌日。ゆうべは昨日の出来事のおかげでほぼ一睡もできなかった。
「…どうしたの、その顔」
朝起きて支度をし、朝ごはんを食べるために食堂へ向かう途中でももえに会った。私の顔を見て開口一番がその言葉だったため、よほどひどい顔をしているのだと思う。
「…ん、ちょっと色々あったの」
「色々?」
「そう、色々…」
席についてトーストを手に取りながら昨日の事を思い返す。
ファラオに話していたことをヨハン君に聞かれてしまっていた。よりにもよって本人に。本人に…っ!
「ちょっとユリ、それマスタードよ!
「え?あっ…」
ジャムと間違えてマスタードを手にとってしまうほど、今の私にはほかのことを考える余裕がないようだ。
「ユリ!」
最初の授業が終わって教室から出ようとしていたところで呼び止められ、振り返るとそこにはヨハン君がいた。
今一番会いたくないけれど、今一番考えている対象でもあった。
「っ、ヨハン君…!」
「ちょっといいかな」
「…」
昨日のことだろうと思い逃げたくなったけれど、ヨハン君の真剣な顔を見てとどまった。
最後の生徒が教室から出て行ったところを見計らって、ヨハン君は私に向き合って口を開いた。
「その…昨日は悪かった。聞くつもりじゃなかったんだけど、オレのこと話してるみたいだったからつい」
「!あ、ううん…っ、大丈夫。私こそ逃げたりしてごめんね…」
どきどきと心臓が早鐘を打つ。
ヨハン君と目を合わせることすらできなくて、本当なら昨日みたいにこの場を立ち去りたかった。
「…昨日の子なんだけど、外で2人で話したんだ。ずっとオレと話してみたかったって言ってたから」
「…うん…」
「オレに好意を寄せてくれていた。できれば異性として意識して欲しいって言われたよ」
「…そう、だったんだ」
それを聞いて胸がじくりと疼いたのを感じた。その先を聞きたくなかったけれど、ヨハン君は私が逸らしていた視線を捉えて、まっすぐに目を見て話を続けた。
「でも断った」
「…え…」
「オレは、あの子には特別な気持ちはない。ユリには誤解して欲しくないから、ちゃんと話しておきたかったんだ」
「…どうして…、私に誤解して欲しくないの…?」
「…それは」
一度私から視線を逸らして、ヨハン君はなにかを思案したようだったけれど、すぐにまたその翡翠色の目は私に向けられた。
「…まだ言えない。ユリの気持ちをちゃんと確かめることができたら、その時に伝えるよ」
「私の、気持ち…?」
「ああ。だからもう、昨日みたいに逃げたりしないでくれよ?」
そう言っていたずらっぽく笑うヨハン君。私はしばらく頭に疑問符を浮かべていたけれど、すぐに笑顔を取り戻した。
「…うん!ありがとう、ヨハン君」
私は逃げ出してしまったのに、彼はきっと勇気を出して私に気持ちを話してくれた。その優しさが温かくて、そしてとても嬉しかった。
1/37
prev next△