15 wish
「…ずっとファンだったの。ヨハン君が宝玉獣のカードの持ち主として選ばれた、って世間で騒がれた時からー」
ついさっき話しかけてきたこの女の子は、オレに向かってそう切り出した。
「あの…もしよかったら、一緒に外を歩かない?ゆっくり話がしたくて…」
「…」
宝玉獣について興味を持っているのだろうか。それとも、オレがカードの持ち主に選ばれた経緯について聞きたいのだろうか。
それなら別に断る理由もないし、話すだけならいいかと思って承諾した。
「…ああ。いいよ」
「本当に?やった!」
十代の追試試験が終わるまで少し時間もあった。それまでユリと話そうと思って彼女を探したけれど姿が見当たらなかったので、目の前のこの女の子と外で話して時間を潰そうと思った。
「嬉しいな。ヨハン君と一緒にお話ができるなんて」
隣を歩くこの子は頬を赤らめてそう言う。この時少しもしかして、と思ったけれど、やっぱりその予想は当たってしまった。
「すごくかっこいいなって思ってたんだ、最初にヨハン君のことを雑誌で見かけた時」
当時、メディアでオレが宝玉獣の持ち主に選ばれたという事実は盛大に取り上げられた。彼女はその中のどれかを目にしたのだろう。
というか、オレは馬鹿なのかもしれない。馬鹿な上にやっぱり結構鈍いのかもしれない。こんなに明らかに自身に向けられた好意に気がつかなかったなんて。
「…できれば私のこと、1人の女の子として意識して欲しいな、なんて」
「…」
目の前の女の子を見る。同じブルー寮だけれど、名前はおろか数回見かけたことがある程度の生徒だった。
ーこれがユリだったら、オレはきっと二つ返事でOKを出していたのかもな、なんて思うと自身の単純さに苦笑する。
でももうオレはユリの事ばかり考えてしまっていることを否定することはできなくなっていた。
彼女の、花のような柔らかい微笑みを思い浮かべるだけで胸が切なくなる思いがした。
…そういえば、この前黄金の卵パンを当ててあげた時のあの嬉しそうな顔。あの時のユリは本当に可愛かったな。
「ヨハン君?聞いてる?」
「…ああ、ちょっと考え事してた」
声をかけられてようやく意識を彼女に戻す。こんなんじゃ、誰かに薄情って言われても仕方がないな、と思った。
「悪いけど、君を異性として意識することはできないんだ」
「え…ど、どうして?他に好きな子がいるの?」
「…まぁ、そんな感じかな」
話はこれで終わりだ、というように、オレは彼女に背を向けてそのまま歩き出した。
いつか彼女がほかの誰かに好意を寄せた時、その想いが報われるといいと願いながら。
そのあと、追試試験はとっくに終わっているであろうという時間になったのに、校舎に行っても、十代にもユリにも会えなかった。
夕飯の時間になってレッド寮の食堂を覗き、そこでようやく十代に会うことができた。
「さっき会ったんだけど、なんかユリが元気なかったみたいなんだよ」
「…え?ユリが?」
「ああ。本人は大丈夫って言ってたけど、少し心配だな」
「そうだな。オレ、あとで様子を見に行くよ」
体調でも崩したのだろうか。心配しつつも夕飯を食べ終えて、ブルー寮に足を向ける。
その途中で、ふと、思う。
自分はさっき、あの女の子の好意がいつか報われるといい、と願ったけれど。
ユリが十代に向けているであろう好意。それを同じように、報われるといいと願える日は来るのだろうか。
「…はー。なんか難しいな」
今までデュエルの事ばかり考えて生きてきたから、こんな風に複雑な気持ちは初めてで。
でもそうやって悩んで、誰かを思って一喜一憂するということは悪くない、と思えた。
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