16 手のひらの体温
「…それでは、十代の追試試験クリアを祝して!」
「かんぱーい!」
ヨハン君の合図を筆頭に、私たちはカチリとジュースの入ったコップを合わせた。
揃ったメンバーは、私、ヨハン君、十代、万丈目君、レイちゃん、明日香。
先日の追試試験の結果が今日クロノス先生から告げられ、結果はギリギリ合格との事だった。
…十代は余裕だったと言っていた気がするので、実は危ないところでの合格だったという訳なのだけれど、とにかく留年は免れる結果となったのだ。
それを祝して、ここ万丈目君の部屋でみんなでお祝いのパーティを開くに至った。
この部屋はふた部屋をぶち抜いて作ったらしく、レッド寮なのにとても広い。中央にテーブルが置かれていて、それを囲うようにしてみんなでソファに腰掛けた。
「いやー、ほんとにヨハンとユリのお陰だぜ!ありがとな、2人とも」
「いいって。オレも十代が留年せずに済んで嬉しいしさ」
「うん、私も!」
「そういえば2人はいつの間に仲良くなっていたの?」
明日香が首を傾げて訪ねた。ヨハン君は、ああ、と言ってそれに答える。
「オレが教室の場所分かんなくて困ってたのを助けてもらってさ。その日からだったな。それまでは話したこともなかった」
「ふうん、そうだったの。よく食堂や購買で2人でいるところを見かけたから、不思議に思ってはいたのよ」
「お似合いなんだし付き合っちゃえばいいのに!」
「れっ、レイちゃん?!」
突然爆弾発言をしたのはレイちゃんだった。
「そうすればライバルが1人減って私がやりやすくなるもの!ねー、十代さま?」
「はぁ?ライバルってなんのライバルだよ」
「なにって恋のライバルに決まってるでしょ」
レイちゃんは十代に枝垂れかかるようにしてそう言ったけれど、十代は何のことかよく分かっていないようだった。
「恋?ライバル?よく分かんねぇな」
「フン、貴様のような子供には恋だの愛だのはまだ早いという事だ、十代」
そう言って得意げに口の端を持ち上げる万丈目君。十代に子供って言ったけど、同い年ではありませんでしたっけ?
「それに比べてオレはすべての愛を天上院君に捧げているつもりだ!なあ天上院君!こんなパーティなどとっとと抜け出して2人きりになれるところへ行こうじゃないか!」
熱烈な視線を込めて万丈目君は明日香を見たけれど、明日香は目の前に置いてあるクッキーがとても口に合ったらしく、そちらに夢中で気付いていないようだった。
どんまい、万丈目君…!
「そういえばユリ、この前元気なかったみたいだけどどうしたんだ?」
十代がそう尋ねる。この前というのは、十代の追試試験の時のことだろうと思った。
「あれはえっと…その…」
「あ、もしかして風邪か?どれどれ」
「っ?!」
あろうことか十代は私の前髪を軽くかき分け、そこに自身の手のひらを軽く乗せたのだ。
おでこに感じる十代の手のひらの体温に、私は心臓が高鳴るのを止められなかった。
「んー、熱はないみたいだけど…」
「だっ、大丈夫だよ!熱なんてないっ…!」
むしろ貴方のお陰でたったいまから発熱しそうです、なんて言えるはずもなく。
まだおでこに手を当てて首をひねっている十代のお陰で、そろそろ本気で熱を出してしまいそうだ、なんて思った時だった。
「ユリ、体調が悪いなら寮に戻ろう。無理しないほうがいい」
「え…ヨハン君…?」
不意に肩に手を置かれて、そちらを見るとヨハン君がすぐ近くに立っていた。そして私の手を取り、そのまま引いて玄関に向かうではないか。
「ちょ、ちょっとヨハン君…?!」
「みんな悪い、ユリが調子悪いみたいなんだ。オレが送ってくからあとは頼んだぜ」
「え…待っ…!」
待って、私熱なんてないんだよヨハン君、と言いたかったのだけれど、それを言う前に玄関の扉は閉められ、私はヨハン君に手を引かれて部屋を後にすることになったのだった。
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