18 夜半頃


寮に着いて別れを告げると、私は自分の部屋に戻った。部屋の明かりをつけて、まずはお風呂を沸かすことにする。

本当はこのブルー寮には大浴場と露天風呂(いずれもとっても豪華なものだ)があるのだけれど、今日は1人でゆっくり湯船に浸かりたい気分だった。


クローゼットを開けて、淡いパステルグリーンの部屋着に着替えてソファに腰掛けた。考えるのは先ほどのヨハン君の事で。


『十代に触られてるとこ…見たくなかったんだ』


確かに彼はそう言った。
思わず首を傾げてレッド寮での光景を思い返してみる。


「…どうして見たくなかったんだろう…。
はっ、もしかして…?十代に突然おでこを触られて舞い上がりまくっていた私がとても見苦しかったとかそういう理由かな…?!」


考えられるのはそれくらいしかない。
あの時の私ときたらきっと挙動不審でとても見ていられない状態になっていたかもしれないし。

とすればあの場にいた全員に同じ思いをさせてしまっていたことになるではないか。


「〜…ご、ごめんなさい…みんな…」


今更謝りに戻るわけにもいかないので、ここで心から謝罪の念を送ることにした。



湯船にゆっくりと浸かって全身温まったあと、浴室から出てドライヤーで髪を乾かしていたときだった。

トン、トン、と小さなノックの音が2回、入口の方から聞こえてきた。


「?誰だろ…」


ももえや明日香かもしれない。明日の課題で分からないところがあるから一緒に考えて欲しいだとか、化粧水が切れてしまったから少し分けて欲しいなどの理由で、たまに部屋を訪れてくることがあるのだ。

ドライヤーのスイッチを切り、まだ乾ききっていない髪の毛を軽くタオルで拭いたあと、私は入り口に向かった。


「はーい。どうした、の…」


鍵を開けてドアを開いたところで、そこに立っていた人物を見て一時停止した。


「…よ、ヨハン、君っ?」
「あ…悪い、変な時に来ちまったかな」
「ううん、大丈夫だけど…どうしたの?」


ヨハン君が私の部屋を訪ねてくるのはこれが初めてだった。
しかももう夜の23時を過ぎている。こんな遅くに、一体どうしたというのだろう。


「このカード、オレの教科書の中に挟まっててさ。これ、ユリのだろ?」
「あ…ほんとだ。どうしてだろ」
「多分今日の授業で使った時、オレの荷物に紛れたんだと思う。明日は実技があるし、デッキ調整もしたいだろうと思ってさ」


そう言って一枚のカードを手渡してくれた。そういえば明日は朝一で実技のテストがあるということをすっかり忘れていた。


「(ヨハン君はまじめだなぁ…)」
「遅くに悪かったな、じゃあオレは戻るよ」


ヨハン君が踵を返そうとしたその時、近くで女子生徒の話し声が聞こえてきた。


「でねー、最近カードの引きが悪くて、全然勝てないの」
「わかるわ、そういう時あるわよね」
「げっ?!」
「ヨハン君、隠れて!」


こんな時間に男子生徒が女子寮にいるところを見られてしまったら、とんだ誤解を招きかねない。
とっさに私はヨハン君の服の裾を引いて、自分の部屋へと引き入れた。


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