22 鼓動
「そういえば鮫島校長となんの話してたの?」
並んで中庭を歩きながら尋ねる。ああ、と言ってヨハン君はそれに答えてくれた。
「この学校に来てみてどうかとか、楽しくやってるか、とかかな。あとアークティック校とはどういうところが違うのかとか。なんか色々聞かれた」
「ふーん…」
そうだ、ヨハン君はあくまで姉妹校からの留学生であって、このデュエルアカデミアの生徒ではない。
いずれは向こうの学校に戻ってしまうのだ。最初から分かっていたことなのに、改めてその事実を思うと胸が疼いた。
「なんだよ。寂しいって思ってる?」
「…そりゃ思うよ。ヨハン君は?」
「オレももちろん寂しいよ。こっちで仲良くなれたみんなと離れるのはさ。ユリにだって会えなくなるし」
そう、会えなくなる。
今みたいに当たり前に毎日顔を付き合わせて、一緒に授業を受けたりお昼ご飯を一緒に食べたりすることはできなくなってしまうんだ。
青空を見上げて思う。今隣にいるヨハン君が向こうに帰ってしまった時、一人で見上げるこの空はどんな風に違って見えるんだろう、と。
「…昨日」
「ん?」
「昨日の答え、ちゃんと言っておきたいの。聞いてくれるかな」
私はヨハン君の服の裾を引いて立ち止まる。そしてこちらを見た彼の手をそっと取ると、昨日と同じように触れる程度にその指先を頬に当てた。
驚いた表情を浮かべるヨハン君。私は空いている方の手をぎゅっと握りしめる。
『十代に触られてた時と今、どっちの方が緊張してる?』
昨日問いかけられたこと。
結局答えられずにいたら、ヨハン君は茶化すようにしてその話題を終了させたけれど、私は昨日のヨハン君の瞳に宿った熱っぽさがどうしても忘れられなかった。
「…ユリ?」
「考えてみたんだけど、どっちが緊張するとかしないとか、よく分からなくて…でも」
「…うん」
「十代がおでこ触った時は、とにかく嬉しくて仕方なくて…夢みたいって思った。でね、ヨハン君がほっぺに触れた時は…」
私の言葉に反応して、ヨハン君の指先がほんの少しだけ動いた。
私の心臓は早鐘を打って、あっという間に耳まで真っ赤になったのが自分でもよくわかる。一言一言を紡ぐのがやっとだった。
でも、ちゃんと伝えておかなければいけない気がした。
「…っ、どきどきした。すごくどきどきしたの…。おかしくなっちゃうんじゃないかってくらい」
「…」
「伝わる、かな」
私の頬に触れさせていたヨハン君の手をゆっくりと下ろして両手で包み、自分の心臓がある辺りにそっと乗せる。
布越しにヨハン君の手の体温が伝わってきて、その温かさに少しだけ落ち着きを取り戻すことができた。
見た目はすごく細いのにこの手はしっかり骨ばっていて大きくて、ああ、男の子なんだなぁ、と頭の中でぼんやりと思う。
「…ああ。しっかり伝わったよ、ユリ」
そのまましばらく手を乗せていたけれど、私がヨハン君の手をそっと解放すると同時に、ヨハン君の手も離れていった。
「ありがとな。気持ち、伝えてくれて」
優しく細められる双眸。
いつも優しく笑っているけれど、その表情は今まで見たどの笑顔よりも優しい、と思った。
「オレ、決めたよ。もう十代に嫉妬なんかしない」
「え?嫉妬してたの?」
「…まあ、してたんだなこれが。でももうしない。だってユリがちゃんと気持ちを教えてくれたからな」
「…」
「でもその代わり、もう遠慮しないぜ。元々我慢は得意じゃないからな」
「え…?」
「こういうこと」
理解できないままでいると両肩に手を置かれ、そのままヨハン君の綺麗な顔が視界いっぱいに広がったーと思った次の瞬間、左頬に柔らかいものが触れたのを感じた。
「…っ?!」
ー頬に、キスをされた。
そしてヨハン君は「へへっ」と照れ臭そうに笑ったのだった。
「な…な…っ?」
「行こうぜ。次の授業、始まっちまう」
ヨハン君。貴方のお陰で今、私の思考回路は完全にショートしました。
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