24 もどかしい


やはりというべきか、十代の部屋の鍵は相変わらず空いていた。

ヨハン君と2人で呆れつつも部屋の中に入らせてもらうことにする。時刻は夕方で室内も薄暗くなりつつあるので、電気も付けた。

ヨハン君は部屋に入るなり「よっ」と言ってベッド脇に胡座をかいている。


「ほんとに不用心だね、十代ったら」
「まぁ、デッキもデュエルディスクも大体持ち歩いてるからな。盗られて困るものがないんじゃないか?」
「…でも、お金は?」
「あいつは金よりデュエルだろ。ま、オレもだけどな」


ヨハン君はそう言ってははっと笑う。
確かにデュエリストならそうなのかもしれないけど、最低の危機感として部屋の鍵くらいはかけて欲しいかな。

立ったままでいても仕方がないので、私はヨハン君と向き合って床に座り込むことにした。


「…」
「…」


よく考えなくても、今この部屋にはヨハン君と私の2人しかいない。かなり遅れてその事実が頭をよぎった時、私はにわかに緊張しだした。


「…なぁ、ユリってさ」
「っ、はい!」
「いい香りするよな。なんか花みたいな」
「そう…かな?」


自分では意識したことなかったけれど、やっぱり人の匂いとかって他人の方が気づくらしい。


「自分では全然気づかなかった。なんの匂いだろ?」
「そうだな。…たぶん」
「っ…」


ヨハン君が上体を傾けて私の方に手を伸ばしたかと思うと、髪を軽く手に掬い取った。そして軽くそれに顔を近づけて囁くように言う。


「シャンプー、かな」
「…っ」
「オレの好きな香りだ」


近い。
ヨハン君の綺麗な顔がすぐ隣にある。それだけでもドキドキするというのに、さらにヨハン君は髪を掬っていたその手をそのまま私の頬に添えたのだ。


「…っ?」
「もう遠慮しないって言ったろ」


真剣な声色。
手のひらが軽く触れているだけなのに、そこが熱をもったような錯覚を覚えてしまう。ヨハン君は真っ直ぐに私を見据えながら続けた。


「なぁユリ。オレ、そろそろユリの気持ちが聞きたいんだけど」
「…わたし、の?」
「ああ」


静かな室内に、ヨハン君の声が響いて溶ける。それはどこか切なさを含んでいるような気がした。


「教えてくれよ。オレの事、どう思ってる?」
「どう…って…」
「聞かれても困ると思うけど、でもオレは知りたいんだ」


真っ直ぐな視線とその口調に、私は訳が分からなくなるくらいに胸が苦しくなるのを感じた。

どう答えていいのか分からずにいると、そのままヨハン君の顔がゆっくりと近づいてきた。


「…!」


心臓の音が最高に頭に響く中、あと数ミリの距離で唇同士が重なるーと思ったその時、誰かが階段を登ってくる音が微かに聞こえてきた。

早いけど十代がデュエルから戻ってきたのかもしれない、と思った私は慌ててヨハン君から身体を離した。そして次の瞬間、ガチャっとドアが開く音が耳に届いた。


「十代?いる?」


そこに顔を出したのは明日香だった。明日香は中にいる私とヨハン君を見て驚いたようだ。


「ユリ?ヨハン?どうしてこんなとこにー」
「…っ、ごめんヨハン君、私部屋戻るね!」
「あっ、ユリ!」


背中越しにヨハン君の声が聞こえてきたけれど、私は振り返らずにその場を去った。

あと少し、あと少し明日香が来るのが遅かったらどうなっていたんだろうー。

それを想像しただけでも胸がぎゅっと締め付けられる想いがして。そんな想いを抱えたまま、私はブルー寮の敷地内へと入って行った。


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