25 気づいた想い
「そう…そんなことがあったの」
その日の夜、私と明日香は並んでお風呂に浸かりながら話をしていた。
あのあと、ブルー寮の私の部屋に訪ねてきた明日香は、私の様子を心配して何があったのかを聞きにきてくれた。
「なかなかやるじゃない、ヨハンも」
「…?」
「十代と同じでただのデュエルバカに見えるけど、ちゃんと攻めるとこは攻めるのね」
「デュエルバカって…」
「あら、2人ともそうじゃない?」
明日香は笑いながらお湯をすくって軽く肩にかけた。ぱしゃ、と小さな音がして、夜の静けさの中に溶け込んでいく。
「そろそろ自分の気持ちに向き合ってみたら?」
「え?」
「あなた自身の気持ちによ」
「…私の…」
「そうね、例えば…休みの日。どこかに出かけて、おいしいもの食べたり、街中をゆっくり散歩して楽しみたい時ってあるじゃない」
「うん。あるね」
「その気持ちを誰と共有したい?」
「え…」
「一緒に手を繋いで。楽しさを分けあって、笑いあうことができるのなら、隣に誰がいてほしい?」
「…」
明日香の言葉に、じわりと心の中に浮かび上がった後ろ姿があった。
意志の強い瞳を宿しているのに、いつも優しい眼差しをしていて。話をしているだけで胸がどきどきと高鳴って、時折見せる真剣な表情にすら不思議と魅入られてしまう、そんな人。
「ー…ヨハン、君…」
どうして私は今まで気がつかなかったんだろう。
いつから彼を意識しだしたのかは覚えていないけれど、ただ話すだけで胸がどきどきして、ヨハン君が女の子と一緒にいるところを見かけただけで、あんなに気持ちを乱されていたじゃないか。
「そう。やっと気づいたのね、ユリ」
「やっとって…明日香は知ってたの?」
「もちろんよ。知らないのなんて十代くらいじゃないの?」
「…」
「最初はあなたが、十代のことが好きなんだと思ってたわ。でもすぐに違うって気づいたの。ユリは憧れ≠通して十代を見ているんだって」
ー憧れ。
明日香の口から出た言葉は私の胸にすっと落ちていって、すんなりと染みていった。
「眩しくて、みんなを惹きつける魅力と、それに強さ。彼にはそれがあるものね。ユリにはきっとそれが眩しすぎて、測りきれずにいたのよ」
「…そう、かもしれない」
「周りから見ればわかるのかもしれないけど、自分ではなかなか気づけないものかもしれないわね」
「…うん…」
本当にデュエルを楽しんでいるんだな、って、一目見ただけで分かるくらいキラキラしたあの顔。
ピンチに立たされてもそれに臆することなく、自分とデッキを信じ抜いて戦う十代。
デュエルでなかなか勝てなくて落ち込んでいる私を、十代はいつも太陽みたいな笑顔でなぐさめてくれて、励ましてくれた。
どう考えたって私の実力は高いところにはないはずなのに、彼は私の戦略や戦い方が好きだと、笑ってそう言ってくれた。
そんな彼に、私はー「憧れ」ているんだ。
「…ありがとう、明日香。私やっと自分の気持ちに気がつけた。ヨハン君に対しても、十代に対しても」
「お礼を言われることなんてしてないわよ。ちゃんと気付けてよかったわね」
「…うん」
そっと自分の胸に手を当てる。
心に浮かんだヨハン君の笑顔を想って、私は静かに目を閉じた。そして気づいた感情を改めてここの中で呟く。
ーヨハン君のことが、好き。
この感情を「恋」と呼ぶんだと、私は初めて知った。
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