29 君と恋をする

信じられない思いでいっぱいだった。

だって今一番会いたくて仕方がなかった人が目の前にいて、そしてその人が私の身体を抱きしめている、なんて。


「良かった…ここにいたんだな」


ぎゅっと強く抱きしめられている。
安堵した声が耳元で聞こえてきて、私も少しずつ身体から力が抜けていくのを感じた。

そのまま少しの間その態勢でいたけど、やがてヨハン君は腕の力を緩め解放すると、私の肩に手を置いた。


「怪我はないか?」
「ううん、大丈夫…」
「…待たせて悪かった。心細かったよな」
「ヨハン君は…私のこと、いつも見つけてくれるね」
「当たり前だろ。オレはユリのことなら、どこにいても見つけられる」


指先が私の涙の跡をそっと辿る。


「ファラオはちゃんと見つかったよ。だからもう安心して大丈夫だ」
「そっか…良かったぁ…」
「落ち着いたらここを出よう。みんなも心配してー」


話している途中だったけれど、私はヨハン君の身体にすがるようにして腕を回した。ヨハン君は驚いたように息を飲んでいる。


「ユリ…?」
「…会いたかった。ヨハン君に…会いたかったの…ほかの、誰よりも」
「…!」
「キス、しようとしてくれたのだって…嫌なんかじゃなかった。嫌なわけない。だって」


あとからあとから、涙と一緒に想いが溢れてきて、止まらなくなる。

もうそれは抑えるのが難しくなっていて、そのくらい私はヨハン君に惹かれていたんだ、と思った。


「だって私、ヨハン君のことー…」


「好き」という言葉を告げる直前。
その言葉を塞ぐようにして、ヨハン君が私の頬に手を添えて、そのまま唇を重ねた。


「…っ…?」


私は驚いて目を見開いた。ヨハン君の顔が、体温が、今までで一番近くにある。

ヨハン君はゆっくりと唇を離すと、目を開けて私の顔を覗き込んだ。とても綺麗な翡翠色の目が私の目を捕らえている。なんて優しい眼差しなんだろう。


「そこから先は、オレから言わせてくれないか」
「…」
「好きだよ、ユリ。ずっと伝えたかった」
「ヨハン君が…私、を…?」
「ああ。でもなかなか言えなくてさ。オレは、ちゃんとユリの気持ちを確かめてから伝えようって決めてたし」
「あ…」


その言葉に、いつか教室で交わした会話を思い出した。


『オレは、あの子には特別な気持ちはない。ユリには誤解して欲しくないから、ちゃんと話しておきたかったんだ』
『…どうして…、私に誤解して欲しくないの…?』
『…それは…まだ言えない。ユリの気持ちをちゃんと確かめることができたら、その時に伝えるよ』


ーあの時の言葉は、そういう意味だったんだ。腑に落ちた様子の私を見て、ヨハン君は小さく頷いた。


「そう言う事。これでも今までかなり我慢してきたつもりだぜ。…まあ昨日は抑えられなくなっちまったけどな」


そう言って照れくさそうに笑い、それからヨハン君は私の両手を優しく握って言った。


「遮って悪かった。ユリの気持ちも聞かせてくれるか?」
「…うん。私も」


包まれた両手から伝わる体温は、私の背中を優しく押してくれた。

言葉にするのはとても難しいと思ったのに、ヨハン君の力はすごい。


「私も、ヨハン君のことが…好きです」
「…へへっ。やったぜ!」


もヨハン君はとても嬉しそうに笑いながら、もう一度私の身体を抱きしめた。

その体温すらとても愛おしくて、このまま離れたくない、だなんて思ってしまうほどだった。


「なあ、もう少し」
「…?」
「もう少しだけこのままでいていいかな」


抱きしめられている腕に少し力が込められて、私はそれに応えるようにヨハン君の背中にそっと腕を回した。


「…うん、私も。もう少しこのままでいたい」


同じ気持ちでいられたことにまた幸せを感じて。

辺りの景色は先ほどまでと何も変わらず暗闇に覆われているのに、貴方が来てくれただけで、もう何も怖くないと思えた。

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