33 せつなさよりも近く


それからあっという間に時間は過ぎて、とうとうヨハン君の留学期間は明日で最後になった。

明日になったら船に乗り、海を渡って元いた学校へと帰っていってしまう。

私はその事実を持て余し、十代を誘って会話をしながら防波堤までふらふらと歩いていた。


「本当にあっという間だったな」
「…うん。そうだね」


あっという間。
その言葉がぴったりだと思った。

初めて教室の場所を聞かれたあの日から今日まで、本当に相応の時間が流れたのかと疑いたくなるくらいに。


「寂しくなるけど、でもユリは大丈夫なんだろ?」
「うん、大丈夫。そう言う十代だってヨハン君とは仲が良いんだから寂しいんじゃないの?」
「オレ?オレは大丈夫さ。会いたいと思ってればまたすぐに会えるって」


そう言って十代はへらっと笑った。
その笑顔を見ると、不思議と本当にそうだという気持ちになってくる。

防波堤から波間を見下ろす。今日も気候のいいアカデミアの陽の光を受けて、きらきらと輝いていた。


「そろそろ終わるんじゃないのか?鮫島校長との面談」
「そうだね。迎えに行こうかな…ありがとう十代、付き合ってくれて」
「いいって。じゃ、またな」


十代と別れて校舎の方へ向かうと、ちょうど建物の中からヨハン君が出てくるところだった。


「ユリ!来てくれたのか」
「うん。面談どうだった?」
「面談ってよりはほぼ雑談だったぜ。こっちでもいい友達ができたとか、向こうに帰っても元気でやりますとかさ」
「そっか」


並んで歩き出すと、自然にヨハン君が私の手を取って繋いでくれる。

最初はみんなに驚かれたしヨハン君のファンの女の子たちの視線がちょっとだけ痛かったけど、今はもうなんでもなくなっていた。

それでも、何度繋いでも慣れなくてドキドキしてしまう。そんな私にヨハン君はしっかり気づいてくれているらしくて、目が合うと安心させるように柔らかく笑ってくれるんだ。


「(…好き。だなぁ)」
「なぁ、今日の夜さ」
「うん?」
「ユリの部屋に行ってもいいか?」
「え?」


一度言われただけでは理解が追いつかずに思わず聞き返す。ヨハン君は軽い調子で続けた。


「ここで過ごすのも最後だしさ。次の休暇まで時間空くし、ユリと過ごしておきたいと思って」
「で、でも…誰かに見つかったらどうするの?」
「大丈夫、ちゃんと考えはあるからさ」
「…」


考えってなんだろう。
前みたいにまた人が少ない時間帯を狙うとかかな。でもばれたらきっと怒られちゃうし

…なんて色んな考えがぐるぐると頭の中で忙しなく回る。


「夜にそっちに行くから、待っててくれよ」
「え、でも…」
「心配すんなって。じゃ、ちょっとみんなにも挨拶に行ってくるよ」
「あ…」


どう答えようか考えあぐねていると、ヨハン君は軽く片手を上げて行ってしまった。




その日、寮での夜ご飯。隣には明日香が座っていた。


「とうとう明日ね。もっと暗い顔してるかなって思ってたけど、そんな事ないから安心したわ」
「ありがとう。…うん、大丈夫。約束したから」
「約束?」
「卒業したら迎えに行く、って言ってくれたの」
「そう…それじゃ良かったわ。でも寂しくなったら我慢しないで話してね」
「うん…!ありがとう、明日香」


思えば、ヨハン君への想いに気づかせてくれたのは明日香だった。

こんなに美人でスタイルもよくて成績も優秀で、その上性格も良いってなんなんだろう。向かう所敵なしとはこの事なんじゃないだろうか。


「(私が男の子だったら間違いなく惚れてるな、うん)」
「ユリ?」


勝手に納得して頷いているわたしの横で、明日香は不思議そうに首を傾げていた。
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