パニ太と私1
「…っ」
まただ。
また頭の芯が痺れるような感覚が走って、突然に胸が苦しくなるような感覚。いつだったか部屋の中にいても、それは度々起こるようになっていた。
「…友理」
「パニ太…」
それは幻影のように、ゆらりと音もなく私の背後に現れる。そして彼はその白い指先で私の顎にそっと触れた。
「また無理してる。ボクにはなんでも分かるんだよ」
「…うん、そうだけど」
「早く休んでよ。無理して動いたらもっと気持ちが疲れてしまう」
「まだ、動きたいの…仕事だってみんなに協力して休ませてもらってるんだから」
彼のまっすぐな視線から逃れるために目をそらすと、途端に不満げな吐息が彼の口から漏れる。
「またドキドキさせられたい?」
「…」
「でもそれもいいか。友理はボクのことだけ考えてればいいんだからね」
ニヤリ、とその口が三日月型に歪められる。
すると私の心臓はドキドキと音を立て始めた。
「…っ、パニ太、やめて」
「やめないよ。ああ、その表情…なんて可愛いんだ。ボクの友理」
上気した私の顔を満足そうに覗き込むパニ太。
その目は暗く淀んでいて、ただただ私だけを映そうとしているようだった。
「ボクだけが君を守ってあげられる。誰よりも何よりもボクが君を愛してるんだから。君はボクの事だけ考えてればいいんだよ」
ちゅ、と頬に唇が落とされる。
その冷たい感覚に身体が震えた。
「いつでも追い込んであげれば、ボクの事しか考えられなくなるんじゃない?ねえ…?」
「っ、パニ太!もうやめて…!」
「…っ、なんだよ」
力一杯、彼の肩を押す。
さらに不満げに歪められた表情が私を見ていた。
「私は…。貴方を疎ましく思ったことなんてない。貴方がいるお陰で、私は自分自身のストレスにも気が付けた」
「はっ。そりゃそうだろうね。ボクは誰よりも友理の事が分かっているんだから」
「だからね、感謝してるの…。自分でも気づけなかった、自分自身の気持ちに向き合わせてくれて。でも…こんなの、間違ってる」
「…ボクは」
パニ太の腕がゆるく私の身体を包み込んだ。そしてその頬を私の頬に擦り寄せて、耳元で囁く。
「友理が大好きなんだ。愛してる…。それだけなんだ。だからたまに君の中に降りていくんだ。ボクが君のことしか考えられないのと同じように、君がボクのことしか考えられなくなればいいと思って」
「うん…分かってる。ああ、いまパニ太が私に会いたがってるんだ、て思う時があるよ」
「深呼吸していつも拒むくせに?」
「だって…人前でおかしくなるのはちょっと」
「ふん。ボクの手で乱れてる友理は何よりも可愛いっていうのにかい?…ま、確かにそんな友理を見れるのはボクだけでいいかな」
ね?と、少し満足げな声が耳元に響く。
そしてパニ太は私の唇をその唇で覆い、軽く音を立ててキスをした。
「…んっ」
「大好きだよ、友理。ボクはいつでもキミの事を考えてるって事、忘れないでよね」
「…分かってるよ、パニ太」
「いい子。…それじゃちゃんと休むんだよ。おやすみ、ボクの友理」
そして最後に頭を軽くひと撫でし、パニ太は姿を消した。