Tonight
迫り来るゾンビたち。
逃げられない主人公。
絶望的な展開、そして剥かれる牙ー
「ぎゃぁあぁあ!!!!!」
その日、ポッポタイム中にユリの絶叫がこだました。
「なんだ?おいユリ、大丈夫か?!」
ガレージの階段を駆け上がって居間に顔を出したのはクロウと遊星。2人とも息を切らし、何があったのかと室内の様子を窺っている。
ユリは涙を浮かべてそんな2人に視線をやった。
「おいユリ、何があったんだ」
「うっ…クロウ、遊星〜…」
『ウガァアァー!!!』
「ぎゃー!!!!」
「…………は?」
テレビの画面に映っているのは、グロテスクなゾンビ達。主人公を襲っているシーンだ。偽物だと分かっていても、赤黒く光る血糊が生々しい。
そしてユリはそんなゾンビ達に脅え、身体を強張らせている。遊星とクロウは目を見合わせてやれやれというように肩を落とした。
「ユリ、怖いのなら見なければ良いだろう」
「だ、だってこれ今大ヒット中で…。見なきゃ絶対損だってカーリーさんが」
「(…なんてものを勧めるんだ、カーリー)」
まったく、と内心呟きながら、遊星はテレビに近づきそのまま電源を落とした。ユリはあっと呟いたが、もうやめておけとクロウにたしなめられて大人しく諦めたようだった。
「おい遊星、修理の依頼が来ているぞ」
「ジャックか。今行く」
階下から聞こえてきたジャックの声に、遊星は居間を出て階段を駆け下りていった。
「…く、クロウーっ」
「わっ?!なんだよ」
ソファを挟んで真後ろに立っていたクロウに、ユリは思い切り抱きついた。途端にクロウの顔は赤くなったけれど、ユリはそれを視界に入れる余裕がないようだった。
「こ…怖かった〜」
「あーハイハイ。ったく、世話の焼けるヤツだな」
致し方ない、というようにクロウはユリの頭を軽く撫でてやる。するとユリは涙を浮かべた目でクロウをじっと見上げた。
「クロウ…お願いがあるの」
「お願い?なんだよ」
「今日一緒に寝て!!」
「…はぁ?!」
「いまお父さんもお母さんも海外出張で家にいないの!だからお願い!」
「無理だっつの。だいたい、ベッドだって一人用なんだぞ。分かってんのか?」
「分かってるよ。今日だけだから、お願い…」
「…う」
消え入りそうなユリの声に、クロウはがっくりとうなだれた。敵わないな、と思う。
「…わーったよ。今日だけだぞ」
「ホント?!」
途端にぱぁっと明るくなる表情。ありがとう、と言ってユリはクロウをぎゅっと抱き締めた。
「(ったく。人の気も知らずに)」
夜、就寝前。
部屋着に着替えたクロウとユリは屋根裏の部屋に来ていた。ユリの部屋着がこのポッポタイムに置いてあるはずもなく、クロウが所持しているTシャツに緩めのハーフパンツを着させる事にした。
自分の服を着させてみると、やはりユリの身体に対して少し大きい。Tシャツの丈も余っている上に肩がはだけてしまいそうだった。
「ホラ。とっとと寝るぞ」
「う、うん…」
ユリにベッドに入るよう促す。布団をめくってその中にするりと潜り込んだユリは、クロウの方を見た。
「…電気消すの?」
「当たり前だろ。じゃなきゃ寝れねーよ」
「そ、そうだよね」
「なんだよ。まだ怖がってんのか?」
昼間見ていたゾンビ映画がまだ尾を引いているのだろう、その目には不安が浮かんでいる。クロウは小さくため息をつくと、パチリと部屋の電気を落とした。ユリが息を飲む音が微かに耳に届く。
クロウはそっとベッドに近づくと、布団をめくりユリの隣に身体を並べた。途端にふわっと彼女が持つ甘い香りが鼻をついて、どくりと心臓が音を立てる。
「(…いやいや。しっかりしろ、オレ)」
クロウの気持ちを知ってか知らずか、遊星とジャックには「しっかり気を持てよ」「節度を保てよ」等口々に言われた。
じゃあ逆の立場だったら同じことが出来るのか、とよほど聞き返してやりたいくらいだ。
肩と肩が触れ合い、互いの体温を感じるこんなにも近い距離に、自分が想っている対象がいる。触れたくて抱き締めたくて頭がくらくらしそうだった。
「…」
「寝れそうか?」
自分の問いかけに対し特に反応はない。ったく、とクロウは呟くように言うと、仰向けだった身体をユリの方へ向けた。
そしてそっと腕を伸ばして、ぽん、と彼女の頭に手を乗せる。
「大丈夫だって。オレがいるんだから」
「…うん。そうだよね」
安心したのだろう、口調が柔らかいものになっている。そしてユリが微笑んだ気配がしたあと、「ありがとう、クロウ」と言う小さな声が耳に届いた。
「…安心する」
「当たり前だろ。このクロウ様がそばについてんだからな」
得意げに微笑む。暗闇の中だからはっきりとは目視できないけど、ユリも表情を崩したのが分かった。
「…ありがとう、クロウ…」
徐々にその声は小さくなっていき、彼女は微睡んでいった。そしてその呼吸が規則的なものに変わっていく直前、「だいすき」という言葉が暗闇の中に小さく響いた。
「…え?オイ今なんて…」
「…すー」
「寝ちまったか」
苦笑しながら、最後に頭を軽くひと撫でしてやる。小さな寝息すらもとても愛おしくて、少しの間その寝顔を優しい眼差しで眺めた。
「…これくらい、良いよな」
誰に許しを乞うでもなく一人つぶやくと、クロウはそっと顔を近づけて、ユリの頬に唇を落とした。
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