君が手を繋いでくれたから
「アトラス様!」
「ジャック!」
「ジャック、今日はコーヒー飲みに来てくれないの?」
上から順に、深影さん、カーリーさん、ステファニーさんの順だ。
ポッポタイムのガレージ内にて、パソコン前に置かれた椅子に大仰に腰掛けているジャック。その周りを囲むアトラスガールズ(命名:私)は、口々にジャックにアピールをしている。
当のジャックといえば、なにやら依頼を受けた機械の修理に着手中の遊星を眺めていた。大方やることがないので暇なのだろう、と思う。
「(ホント、なんでジャックがモテるんだろう…世界の七不思議の一つだよ)」
「おいユリ、貴様いま何かオレの陰口を考えているな」
「エスパーなの?!」
そんなに私はわかりやすく蔑んだ表情でジャックを見ていただろうか。ジャックは腕を組んでじろりと私に視線を向けている。
「目つきの鋭いアトラス様も素敵です」だなんて深影さんが言っているのが聞こえるけど、彼女は色々大丈夫なんだろうか。
「よーっす、今帰ったぜ」
「!クロウ…」
ガレージの入り口から、クロウの陽気な声が聞こえてきた。途端に私の意識はそちらに集中し、鼓動はみるみるうちに速まっていく。
遊星はその声に、作業の手を止めて顔を上げた。
「お帰り、クロウ」
「おう。よー、なんだ、ユリも来てたのか」
そう言ってにかっと笑いかけてくれる。
それだけで私は幸せでたまらない気持ちになってしまうんだ。クロウはそんな事、ちっとも知らないだろうけど。
「きょ、今日はお仕事だったの?」
「いんや。久しぶりに休み取れたからさ、ブラックバードでそこらへんぐるっとな」
そうか。だから今日はあの制服のジャケットを着てないのか、と納得した。それにしても、クロウがブラックバードに乗ってる姿、見たかったな。Dホイールを操るクロウの格好良さと言ったら…。
「フン。ユリ、お前は相変わらずクロウの前では借りてきた猫のようになりおって」
「えっ?!ななな何言ってるのジャック!!」
「そうだな。そう言えばクロウの前だといつもとは様子が違う」
アトラスガールズはうんうんと頷き、遊星もが同調し始める始末。なんてこった。よりにもよってクロウ本人がいる前でそんなこと言わなくてもいいじゃないか。少しは恋する乙女に配慮する気持ちとかないのか。
そんな事を考えながらクロウの方を横目で見るけれど、本人は疑問符を浮かべて首を傾げていた。全然気づいていないようだし、そんな様子がまた可愛いな、と思う。
「あん?なんだよユリ、どっか悪ィのか?」
「え?!そ、そんな事ないよ?」
「いやーでもよ、お前なんか顔赤いぜ?風邪か?」
大丈夫かよ、とクロウは私の顔を覗き込んでくる。本当に彼は優しい。優しくて温かくて真っ直ぐで、そんなクロウだから、私は心を奪われっぱなしなんだ。
「クロウ、そこらへんにしといてやれ。それ以上近付くと本当にユリが発熱しかねんからな」
「はぁ?イミ分かんねーけど…」
「そうだ!とりあえずユリちゃんを家まで送ってあげたらどうかしら。女の子1人で夜道を歩くなんて危ないんだから!」
ぽん、とカーリーさんが手を叩いてそう言った。クロウを前にして極度に緊張しているため、嬉しいような撤回して欲しいような、そんなよく分からない気持ちになってしまう。
「別にいーけどよ。んじゃ行くぜ、ユリ」
「あ、クロウ…っ?!」
なんという事だろう。
ガレージの出口へ足を向けたクロウは次の瞬間、私の手を取ってそのまま引いていったのだ。
「(てっ…手ぇぇえ!!!繋いでる!!繋いでるよ!!!)」
他のみんなも驚いたのだろう、呆気に取られた様子で私とクロウがガレージを後にするのを見送っているのが見えた。
「(ど、どうしよう…何か、何か言った方がいいのかな?!)」
手を繋いだまま、私とクロウは薄闇の中を歩く。街灯にほんのりと照らされたクロウの横顔を伺うことは出来たけど、なにを思っているのかは全く読み取れなかった。
「…く、クロウ?」
「なんだよ」
「あ、あの…手…」
どうして繋いでくれてるの?と尋ねる前に、クロウは立ち止まってこちらを見た。そして繋いでいる手に少し力を込めたのが伝わってきた。
「嫌か?」
「まさか、そんなわけ…」
「そーかよ。なら…もう少しこのままでいさせてくれ」
そして前を向いて再び歩き出す。
その耳が赤くなっているのが見えて、私は心臓が高鳴ったのを感じた。
「(…そんな事言われたら、私期待しちゃうよ、クロウ)」
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