優しい神様の握り飯


大きい刀も小さい刀も、皆、黙々と作業を続け、雑草だらけだった畑も随分とマシになってきた。
雑草は殆ど抜き終わり、短刀や脇差に比べ、力のある太刀が鍬で土を掘り返し、表に出て来た雑草の根っこを短刀達を中心に取り払い、畑全体の半分程を終えた頃には、正午を回った時刻だった。

途中、水分補給や塩を舐め休憩を取ったが、それでも体には疲れが溜まり、食事担当の燭台切もその場に座り込み、その背中には、びっしょりと汗が滲んでいた。

だが、体は正直で、至る所から腹の虫が鳴り響き、鈴も顔全体を伝い、玉の汗を浮かべながら、困ったように眉を下げた。

きっと自分に出来る事は、この場の皆に昼食の用意をする事だろう。
だが、自分一人で用意した食べ物を食べてくれるだろうか。

そんな事が頭の中をグルグルと廻っている。

そんな時だった。

鈴の知らない神気がこちらに向かって来た。
それも、一つではなく、複数。

その神気に気付いたのは、鈴だけではなく、その場にいた者全員が気付いた。

彼らにとって、この神気の者達は信頼出来る者だが、鈴に何をするのか分からない。

江雪と宗三が素早く鈴の前へ立つと、小夜を始め、乱や薬研達が鈴の周りをぐるりと固めた。

他の皆もそれぞれ身構え、その場の空気がぴん、と張り詰めた。

砂利の擦れ合う音がし、鈴達の前に現れたのは、体中に大小の切り傷を負い着ている物も切り裂かれ、ボロボロな状態の新撰組の刀達だった。

それぞれの手には、大皿に山盛りの握り飯があり、想像していたのとは違った彼らに呆気に取られ、暫く気まずい空気が流れた。

そんな空気を変えたのは、沖田総司の愛刀であった、加州清光だった。

ぶすぅ、と、不機嫌そうに表情を歪め、一言、ぼそり、と言葉を漏らした。


「そんな歓迎、嬉しくないんだけど」


そう言われては、非常に申し訳ない気持ちに襲われ、皆、口を揃えて謝った。
それはもう、誠心誠意、心を込めて謝った。

頭も深々と90度下げ、その綺麗に揃った動きに不機嫌だった筈の加州を始め、新撰組の刀達は耐え切れず、噴き出し笑った。

それに対して、安心すれば良いのか、怒れば良いのか複雑な気持ちになりながら体から力が抜け、でも、頭の中には疑問が浮かんだ。


「何で部屋から出て来て、握り飯なんか作って持って来たんだ?」


と。
そんな素直で正直な疑問だった。

それ程、顔に出ていたのだろうか。
その疑問は加州の口から明かされる事となった。


「彼女が来てから、ずっと様子見てたけど、何か本丸が良い方向に向かってるじゃない?
あの左文字まで部屋から出て来たし、それで俺達も部屋から出ても別に良いかなぁ、って、思ってさ。
で、丁度、畑仕事していたみたいだから、握り飯でも作って差し入れしようかなぁ、って、意見が出て」


まあ、勝手に厨使った上に白米使って、悪かったけどさ…、その歓迎の仕方は酷くない?

そう言った加州を含め、新撰組の刀達にまた申し訳ない気持ちになり、また頭を深々と下げ謝った。


「ま、別に気にしてないけどね。ほら、冷めるから早く食べよ」


その加州の言葉に短刀達が、真っ先に加州の所へ駆け寄り、それに続くようにぞろぞろと加州の元へ向かった。
そして、目を輝かせながら大皿から握り飯を取る、その姿を見て、鈴はまた一つ安心する事が出来た。

何だか怖いぐらいとんとん拍子に上手くいっているが、別段困る訳がなく素直に喜べる事だった。

鈴が動かない事に大倶利伽羅は気付いていたが、様子を見るだけに留まっていた。

今の鈴は別に遠慮している訳ではない。
ただ純粋に嬉しいのだろう。

部屋に閉じ篭っていた刀達が、こうして外に出て皆と会話し、食事をしている。

それが嬉しいのだろう。

鈴らしいそれに大倶利伽羅は、一人、口元に笑みを浮かべた。

だが、鈴に声を掛けたのは、大倶利伽羅ではなく、鈴と暫く一対一で会話をしてなかった、小狐丸だった。


「早く行かねば、無くなってしまいますよ」


鈴の背中に手を添え、そう言った小狐丸に鈴は、きょとん、と、見上げ目をぱちくりさせると嬉しさを隠しきれていない、そんな緩みきった表情で頷いた。

それに加州も気付いた。


「ほら、お姉さんの分も作ったんだから早くおいで!」


その言葉に鈴は驚き、目を丸くさせ、咄嗟に小狐丸を見上げると、彼は優しく笑みを浮かべ、鈴の手を取ると、鈴の手を引き、皆の元へ向かった。

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